「KSK2でAI税務調査が始まる」「もう逃げられない」。2026年に入って、こうした記事や動画を目にする機会が増えました。
不安を煽る情報が多いので、先に申し上げます。KSK2で「AIが調査先を決める時代」が始まるわけではありません。機械学習を使った調査選定は、KSK2を待たずに既に動いています。
この記事では、国税に長年勤めた元国税調査官のシロクマくんが、国税庁の公表資料と、情報公開請求で開示された文書をもとに、KSK2で本当に変わることを冷静に整理します。
先に結論
・KSK2は、国税庁の基幹システム「KSK(国税総合管理システム)」の全面刷新です。公表資料での呼称は「次世代システム」で、令和8年度(2026年度)に稼働予定です。
・「AIが調査先を選ぶようになる」は正確ではありません。機械学習で申告漏れの可能性が高い納税者を判定する取り組みは、既に実施されています。
・本当に変わるのは「データの見え方」です。税目ごとに縦割りだったデータベースが統合され、外部データの取り込みが可能になり、申告の不整合が機械的に見えやすくなります。
KSK2とは——国税の基幹システムの全面刷新
KSK2とは、平成7年(1995年)から使われてきた国税庁の基幹システム「KSK(国税総合管理システム)」を全面刷新する次世代システムの通称です。国税庁の公表資料「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2023-」(令和5年・2023年6月公表)では、一貫して「次世代システム」と呼ばれています。
刷新のコンセプトは3つです。
- 紙からデータへ(書面中心からデータ中心の事務処理)
- 縦割りシステムの解消(税目別・事務系統別のデータベースやアプリケーションを統合)
- メインフレームからの脱却(独自の大型コンピュータからオープンなシステムへ)
出典: 国税庁「税務行政のデジタル・トランスフォーメーション-税務行政の将来像2023-」(令和5年6月)p.38
現行KSKと何が変わるのか
公表資料の対比図をもとに、現行KSKと次世代システムの違いを整理します。
| 項目 | 現行KSK | 次世代システム(KSK2) |
|---|---|---|
| データベース | 所得税・法人税など税目別に縦割り | 課税・徴収を通じた統合データベース |
| 申告書の入力 | 職員による入力・出力帳票で処理 | e-TaxとAI-OCRで紙の申告書もデータ化 |
| 事務処理・決裁 | 出力帳票による書面決裁 | システム上で処理・電子決裁 |
| 外部データ | 取り込み不可 | 外部データ・インターネットからの取り込みが可能 |
| データ分析 | OAソフトで個別に実施 | BIツール・BAツール・AIが統合データベースに接続 |
注意点がひとつあります。この対比は公表資料の図にある「論理的なイメージ」で、物理的なシステム構成を示すものではありません。それでも方向性は明確です。税目を横断してデータがつながり、分析ツールが直接そこに接続する形になります。
「AIが調査先を選ぶようになる」は正確ではない
機械学習による選定は既に動いている
公表資料は、収集したデータをBAツール(統計分析や機械学習で法則を見つけ、予測を行うビジネスアナリティクスのツール)などで分析し、申告漏れの可能性が高い納税者を判定して、効率的な調査・行政指導を実施する取り組みを「進めています」と現在進行形で書いています。
つまり、AIを使った調査選定はKSK2から始まるのではありません。既に始まっています。
開示文書に見える運用の実像
当サイトを運営する元国税調査官の税理士が情報公開請求で入手した、令和7年(2025年)6月16日付の国税庁法人課税課長の指示文書(課法7-9)は、機械学習の予測モデルが付けるリスクスコアをもとに高リスクの法人を優先的に検討し、低リスクの層は「明確な理由がない限り調査対象としないことを徹底」するよう全国に指示しています。選定を支援するシステムは既に導入され、最大限活用するよう指示されています。この指示は法人課税の領域のものですが、公表資料は税目を限定せず機械学習による判定の取り組みを記載しており、データでリスクを測って選定する方向は共通です。
国税の内部でどんな選定支援システムが使われているかは、税務調査の対象を絞る「データ選定」の最前線で詳しく解説しています。
では、KSK2で何が強まるのか
KSK2の意味は、こうしたデータ分析が基幹システムの標準装備になることです。税目横断の統合データベースに分析ツールが直接つながり、分析に使える素材の幅と処理の速さが変わります。
「AIが決める」のではなく、「データで見える範囲が広がる」。これがKSK2の正確な理解です。
納税者から見て、何が「見える」ようになるのか
システムの話を、納税者側から見た変化に置き換えます。公表資料には次の取り組みが並んでいます。
- 預貯金照会のオンライン化。金融機関への照会はオンライン化が進み、対象も拡大しています
- 海外資産の情報交換。CRS(共通報告基準)により、海外の口座情報はCRS参加国・地域の税務当局から自動的に届きます
- 収入データの事前保有。「書かない確定申告」が示すとおり、給与や年金などの収入データを国は既に持っています
共通するのは、申告書に書かれた数字と、国が別ルートで持っているデータの突き合わせがしやすくなる方向だ、ということです。売上の計上漏れや所得の書き忘れは、人の目ではなくデータの照合で浮かび上がる時代になります。
いつから変わるのか
公表資料にある稼働時期は「令和8年度」(2026年度)です。税理士業界では「2026年9月24日稼働」という日付が広く言われており、情報公開請求で開示された全国国税局長会議の資料(令和8年・2026年)でも、令和8年9月24日のリリース予定としてスケジュールが描かれています。あくまで資料時点の予定日であり、変更の可能性はあります(本記事は2026年8月時点の情報です)。
あわせて令和8事務年度には、申告書の入力などの内部事務を専門部署に集約するセンター化が全税務署で実施される予定です。システムと事務体制の両方が、同じ時期に切り替わることになります。
どう備えるか——正確な申告がそのまま最大の備えになる
開示文書が示すのは、リスクが低いと判定された納税者には調査リソースを割かない、という運用の明文化です。ただし、適正に申告していても、業種や取引内容、収集された資料情報を端緒に調査対象となることはあります。目指すべきは調査の回避ではなく、数字の整合が取れていて、聞かれたら説明できる状態を保つことです。それがデータ選定の時代の一番の備えになります。
具体的には、売上の計上漏れをなくすこと、申告書と手元の記録の整合を保つこと、期限内に申告することです。特別なテクニックより、正確な申告の積み重ねが効きます。
自分の業種がどれくらい調査されているかは税務調査が多い業種ランキングで、調査が来る確率の実態は税務調査が来る確率で確認できます。
それでも、調査の連絡が来る可能性はゼロにはなりません。税務調査は、来てから慌てるものではなく、日頃から備えておくものです。
税務調査のスポット対応を税理士に依頼すると、60万円以上の費用がかかるのが一般的です。ケースによっては100万円を超えることもあります。シロクマくん税務調査あんしんメンバーシップなら、月額1,078円〜(税込。月払1,408円、年払12,936円)で、国税に長年勤めた元国税調査官の税理士が税務調査に対応します。
KSK2に関するよくある質問
KSK2とは何ですか?
KSK2とは、国税庁の基幹システムKSK(国税総合管理システム・平成7年稼働)を全面刷新する次世代システムの通称です。税目別に縦割りだったデータベースの統合、AI-OCRによる申告書のデータ化、分析ツールの接続などが柱です。
KSK2はいつから稼働しますか?
国税庁の公表資料にある時期は令和8年度(2026年度)です。情報公開請求で開示された全国国税局長会議の資料には令和8年9月24日のリリース予定が描かれていますが、資料時点の予定日であり変更の可能性はあります(2026年8月時点)。
KSK2でAIが調査先を決めるようになるのですか?
正確ではありません。機械学習で申告漏れの可能性が高い納税者を判定する取り組みは、KSK2を待たずに既に実施されています。KSK2はその分析基盤を基幹システムに統合するもので、「AIが決める」のではなく、データで見える範囲が広がる変化です。
KSK2で税務調査は増えますか?
調査件数が直ちに増えるとは公表されていません。ただし公表資料は、デジタル化で効率化して浮いた人手を調査・徴収の分野に重点的に振り向ける方針を明記しています。量が増えるかどうかより、データ分析に基づく選定の精度が上がる方向だと理解するのが正確です。
KSK2で個人事業主にはどんな影響がありますか?
申告書の数字と、国が別ルートで持つデータ(収入データ・預貯金照会・海外資産情報など)の突き合わせがしやすくなります。数字の不整合が機械的に浮かび上がりやすくなるため、売上の計上漏れをなくし、記録と申告の整合を保つことがこれまで以上に重要になります。
KSK2は正式名称ですか?
通称です。国税庁の広報資料「税務行政の将来像2023」などでは「KSK2」の名称は使われず、一貫して「次世代システム」と記載されています。現行のKSK(国税総合管理システム)の後継という意味で税理士業界などで広く使われており、この記事でも通称として使っています。