税務調査の対象を絞る「データ選定」の最前線—国税のSAT・RIN・結という3つの選定支援システム

シロクマくんがタブレットでデータを見る—国税のデータ選定とSAT・RIN・結のイメージ

「税務調査の対象って、どうやって選ばれているんですか?」

この質問、税理士事務所でもよく聞かれます。答えは「国税が運用する選定支援システム」を使って、データに基づいて選ばれている、というのが現代の姿です。世間では「AIで選ばれている」と言われることもありますが、内部資料の表現に即すると「データ活用を基軸とした選定」というのが正確な言い回しです。

この記事では、東京国税局の内部資料と国税庁本部の会議資料(いずれも情報公開法に基づき、適法に開示請求で入手したもの)から、税務調査の対象選定の最新事情を、わかりやすく整理してお伝えします。

「税務調査の対象、AIが選んでます」って本当?

内部資料の表現は「データ活用を基軸とした選定」ですが、世間がイメージする「AIによる選定」とも重なるコンセプトの仕組みが運用に入っている、と読み取れます。

申告書や決算書のデータ、過去の調査結果、外部から収集した資料情報などをコンピュータが組み合わせて、調査必要度の高い納税者を絞り込む—そういう設計です。国税が使っているこれらのシステムには、ちゃんと正式名称があります。次に見ていきましょう。

国税が使う3つの選定システム—SAT・RIN・結

東京国税局の内部資料には、課税部門ごとに3つの選定支援ツールが運用されている、と明記されています。

部門 システム名 正式名称
個人課税 SAT 調査選定補助ツール
資産課税(相続税等) RIN 相続税選定支援ツール
法人課税 結(むすぶ) 選定支援システム

出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度の課税部門共通の事務運営に当たっての基本的な考え方及び留意事項」p.4(情報公開法に基づく開示請求により取得)

3つとも、それぞれ別のチームで設計・運用されているのが特徴です。個人・資産・法人で、扱うデータの性質が違うので、別のシステムが必要、ということでしょう。「結」だけ漢字なのも特徴的な点です。

SATの開発経緯—現場の声が背景にあった

このSAT、開発の経緯が内部資料に書かれていて、これがSATの背景を理解する上で重要な記述です。

令和4事務年度に、国税庁本部のパイロットプロジェクトとして試行が始まりました。当時、各税務署で実地検証事案(局指示の事案)の選定が試行されていたのですが、現場の統括官から「選定基準が分かりにくい」「なぜこの納税者が選ばれたのか説明できない」という声が多数上がった、と資料に記されています。

こうした課題認識を背景に、データを一元化してロジックを共有できる仕組みとして、SATの開発が進められた、という流れが資料から読み取れます。

仕組みとしては、以前は申告・決算書の金額を担当者がExcelに手入力していた工程を、データを自動出力する仕組みに変えた、と書かれています。一次選定→二次選定→準備調査の3段階で絞り込んでいくフローです。

出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度 個人課税部門の事務運営に関する参考資料(資料1別冊)」p.21

RINと結—資産課税と法人課税の選定支援

RINは相続税の選定支援ツール。相続税は申告期限が相続開始から10か月と決まっていて、そこからさらに調査の対象を選ぶ、という時間的制約がある領域です。資産の評価・名義変動・贈与履歴など、扱うデータの種類も独特です。

結(むすぶ)は法人課税の選定支援システム。法人の場合、グループ会社・グループ通算制度(旧・連結納税制度)・海外取引・電子帳簿保存法対応など、見るべき要素が個人と大きく異なります。なお、法人課税の資料には、CRS情報(海外金融口座の情報交換)が選定支援システム「結」に登載されている、という記述があります。

3つのシステムは、令和5事務年度・令和6事務年度の資料でも継続して名前が出てきます。「短期間のキャンペーンではなく、恒久的なインフラとして運用されている」と読み取れます。

出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度 課税部門共通資料」p.4/東京国税局 令和6年7月全管特官・統括官会議資料 p.6

「データセンター(仮称)」設置構想—国税組織のDXはさらに加速

国税庁本部の令和4年5月の会議資料には、「データセンター(仮称)」を設置する構想が明記されています。国税組織が入手する多種多様なデータ(申告データ・資料情報・第三者情報など)を、データマネジメントの共通ルールのもとに集約・管理する、という構想です。令和5事務年度から、まずは課税部で試行を開始する、という計画も書かれています。

つまり、SATやRINや結のような選定支援ツールが「フロント」だとすると、その背後にデータを集約する「バックエンド」を整備しようとしている、ということです。組織全体のDX(デジタル・トランスフォーメーション)が進んでいる、と読み取れます。

調査の現場でモバイルPCや携帯プリンタが使われている話は、国税の調査官、現場でモバイルPCと携帯プリンタを活用—税務調査のIT化最前線をまとめた記事で詳しくお伝えしています。フロントもバックエンドも、IT化が同時に進んでいる、というのが大きな構図です。

出典:国税庁本部「全国国税局課税(第一・第二)部長会議資料 令和4年5月30・31日」p.5-7

「真に調査すべき者」—国税が公式に呼ぶ3カテゴリ

同じ国税庁本部の会議資料には、選定システムを通じて重点的に絞り込みたい対象として、「真に調査すべき者」という公式の表現が出てきます。具体的には、次の3カテゴリです。

  1. 高度な節税スキーム事案
  2. 富裕層
  3. 消費税不正還付事案

これら3カテゴリは、国税が事務量を重点的に投下する対象として位置づけられている、と読み取れます。一方で、ここに直接該当しない場合でも、別の重点課題(無申告・シェアリングエコノミーなど)に該当することはあり得ます。国税の重点5項目を3年連続資料で読み解いた記事もあわせて読むと、自分の立ち位置が見えやすくなります。

出典:国税庁本部「全国国税局課税(第一・第二)部長会議資料 令和4年5月30・31日」p.8

データ選定の時代に、納税者側で備えておけること

なお、これらの選定支援システムを動かす国税の基幹システム自体も、令和8年度(2026年度)に全面刷新されます。刷新の全体像と税務調査への影響はKSK2とは?国税の次世代システムで税務調査はどう変わるかで解説しています。

ここまでお読みいただいて、「思ったより国税のIT化・データ活用が進んでいるんだな」と感じた方も多いはずです。最後に、データ選定の時代に、納税者の側で備えておけることを少しまとめておきます。

まず、申告内容を年々ブレなく組み立てておくこと。データ選定の仕組みは、過年度との比較や同業他者との比較から「異常値」を拾うのが基本です。年度ごとに数字が大きく変動すると、その理由が説明できる準備をしておく必要があります。

次に、データの記録を自分側でも残しておくこと。プラットフォームの取引履歴、銀行口座の入出金、領収書のデジタル保管—。「いざというときに、説明資料をすぐ出せる」状態を作っておくと、調査の場面で大きな差になります。個人課税部門全体の調査では1件あたり平均約438万円の追徴という数字も出ていますが、その内訳や中央値については個人の税務調査の追徴税額438万円の実態をまとめた記事で整理しています。

そしてもう一つ。万一、調査の連絡が来たときに、その場で頼れる窓口があるかどうか。シロクマくん税務調査あんしんメンバーシップは、長年国税で調査現場に立ってきた元国税調査官(シロクマくん)が運営する、税務調査のための備えのメンバーシップです。月額1,078円〜(税込。月払1,408円、年払12,936円)で備えられます。スポットで税理士に依頼する場合(単発の税務調査立会・対応の依頼を想定した一般的な相場として)の費用は60万円以上が目安で、ケースにより高額化することがあります。月額換算で見れば、スポット依頼の10分の1以下のコストに収まる水準で、日頃から備えておけるサービスです。

データ選定の時代でも、最終的に調査の現場に立つのは「人」です。納税者側も、データを使って自分の申告を整理しておくこと。それが、これからの税務調査と向き合う基本姿勢になりそうです。

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税務のシロクマくん

この記事の監修者

税務のシロクマくん(税理士)

税務署一般部門、特官部門、国税局調査部で国税調査官を長年務め、その実績と経験を活かし、現在は税理士として税金や税務調査の情報を発信中。

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