税務調査の備え・対策|連絡前にやるべき5つを元国税調査官が解説

税務調査の備え・対策|元国税調査官が解説

先に結論

・税務調査の備えは「敵を知る」ことから。国税が重点的に見ている5項目と、調査先の選び方を知れば、自分が何を整えるべきかが見えます。

・最強の備えは特別なことではなく、日々の正確な記帳・証憑の保管・事業用口座の分離です。

・税務署からの連絡は突然来ます。「調査」か「行政指導」かを見分け、相談できる先を持っておくことが安心につながります。

「税務調査の備えと言っても、何をすればいいのか分からない」

これは、顧問税理士をつけていない個人事業主・フリーランスの方からよく聞く声です。漠然とした不安はあっても、具体的に何を準備すればよいかは、なかなか分かりません。

この記事では、元国税調査官の立場から、税務調査の備えを体系的に整理します。国税庁・国税局の資料(情報公開法に基づき適法に開示請求で入手したものを含みます)をもとに、「国税が何を見ているか」を知り、そこから逆算して「では何を備えればよいか」を具体的にお伝えします。

この記事は税務調査の備え全体の「地図」です。調査の進め方や個別の準備は、流れ必要書類事前通知が来たらの各記事で詳しく解説します。本記事では全体像と「今日からできる備え」に絞ります。

備えの第一歩は「国税が重点的に見る5項目」を知ること

やみくもに身構えても、備えにはなりません。まず、国税がどこに力を入れているかを知ることが出発点です。

東京国税局の内部資料によると、実地調査における重点課題として、次の5つが掲げられています。しかもこの5項目は、令和4・5・6事務年度の3年連続で同じ内容でした。つまり、一時的な方針ではなく、国税の長期的な重点テーマだと考えてよいものです。

重点5項目 こんな人は確認を
① 消費税の適正課税 課税事業者・インボイス登録者・還付申告
② 国際化への取組 海外取引・海外資産・外国企業からの報酬
③ 富裕層への取組 高額所得・多額の資産・生前贈与
④ 無申告事案 確定申告をしていない・期限後申告が続く
⑤ シェアリングエコノミー等新分野 フリマ・配信・暗号資産・ネット物販など

出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度の課税部門共通の事務運営に当たっての基本的な考え方及び留意事項」p.4ほか(情報公開法に基づく開示請求により取得)

自分の事業がこのどれかに当てはまるなら、その領域の記録を特にていねいに整えておく。これが、もっとも効率のよい備え方です。

国税はどうやって調査先を選ぶのか

税務調査の対象は、ランダムに決まるわけではありません。国税は、申告データを分析して「調査すべき理由がある申告」を選び出しています。

内部資料には、調査先の選定を補助するツールの名前まで記されています。個人課税は「SAT」、資産課税は「RIN」、法人課税は「結(ゆい)」という選定支援システムです。これらは過去の調査事績などを学習し、選定の精度を年々高めています。

選定で目を引くのは、申告内容の「不自然さ」です。売上の急な増減、同業より極端に高い経費率、売上が1,000万円を少し下回る申告、無申告の継続などが、シグナルになります。逆に言えば、日頃から整合性のとれた申告を続けていれば、シグナルは出にくくなります。具体的な確率や選定基準は税務調査が来る確率は?個人事業主・法人別の実態で詳しく解説しています。

調査では何を見られ、どのくらいかかるのか

備えるには、調査の実像を知っておくことも大切です。

国税の事務計画資料によると、税務調査1件あたりの標準的な所要日数は、営業等の所得者で12.3日、農業で13.3日とされています。短期間で論点を絞って行う着眼調査は、机上で0.8日ほどです。また、調査事務量の80%以上が実地調査に充てられる、とも記されています。「数日で終わるもの」ではなく、ある程度の期間をかけて見られると考えておきましょう。

出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度 事務計画等の策定について」p.18(情報公開法に基づく開示請求により取得)

調査の現場では、調査官が「質問応答記録書」という書面を作成することがあります。これは納税者の説明を記録し、署名を求めるもので、重加算税などの判断の証拠として使われます。その場の受け答えが書面に残るため、あいまいな記憶で答えず、事実を正確に伝えることが重要です。調査全体の流れは税務調査の流れで確認できます。

今日からできる税務調査の備え

ここまでを踏まえ、具体的な備えを5つにまとめます。特別なことは必要ありません。

1つ目は、正確な記帳を習慣にすることです。売上を漏れなく計上し、経費は事業に関係するものだけを計上する。これがすべての土台です。

2つ目は、証憑(領収書・請求書・通帳)を保管することです。書類が残っていなければ、経費として認められないことがあります。保存期間は原則7年が目安です。期間の考え方は税務調査は何年分遡る?で解説しています。

3つ目は、事業用とプライベートの口座・カードを分けることです。入出金が混在していると、調査で一つひとつ確認が必要になり、時間も疑いも増えます。

4つ目は、当日提出する書類をあらかじめ把握しておくことです。何を準備すべきかは税務調査の必要書類チェックリストにまとめています。

5つ目は、相談できる専門家とつながっておくことです。調査の連絡が来てから探すと、緊急対応で費用が高くなりがちです。

備えチェックリスト(できているか確認)

いまの自分の備えがどの程度かを、次のリストで確認してみてください。「いいえ」が多いほど、調査時に慌てるリスクが高まります。

確認項目 はい / いいえ
売上を毎月もれなく記帳している ☐ / ☐
領収書・請求書・通帳を7年分保管している ☐ / ☐
事業用とプライベートの口座・カードを分けている ☐ / ☐
経費はプライベート分を按分して計上している ☐ / ☐
重点5項目(消費税・国際・富裕層・無申告・新分野)の該当を確認した ☐ / ☐
税務調査の連絡が来たときの相談先がある ☐ / ☐

「連絡が来たとき」の備えも持っておく

日頃の備えに加えて、いざ税務署から連絡が来たときの心構えも、備えの一部です。

連絡を受けたら、まず「これは調査ですか、行政指導ですか」を確認してください。両者は手続も心構えも異なります。見分け方と対応は税務署から連絡が来た—「調査」と「行政指導」の違いで、事前通知を受けてからの手順は税務調査の事前通知が来たらで解説しています。

なお、調査の場で調査官の質問に正当な理由なく答えない、虚偽の答弁をする、といった行為は「検査忌避」として扱われ、かえって不利になります。落ち着いて、事実を正確に伝えることが最善の対応です。

まとめ:備えとは「いつ来ても大丈夫」な状態をつくること

税務調査の備えとは、特別な裏技ではありません。国税が重点的に見る領域を知り、日々の記帳と証憑保管を整え、いざというときの相談先を持っておく。この積み重ねが、「いつ来ても大丈夫」な状態をつくります。

とはいえ、顧問税理士をつけていない個人事業主・フリーランスにとって、相談先の確保はハードルが高いのも事実です。スポットで税理士に税務調査対応を依頼すると、費用は60万円以上が目安です。

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本記事の一次情報について

本記事で引用した国税の内部資料は、情報公開法に基づく開示請求により適法に取得したものです。主な出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度の課税部門共通の事務運営に当たっての基本的な考え方及び留意事項」/「令和5事務年度 事務計画等の策定について」ほか。記載の数値・方針は令和5事務年度資料時点のものです。

税務調査の備えに関するよくある質問

税務調査の備えとして、まず何をすればいいですか?

日々の正確な記帳と、証憑(領収書・請求書・通帳)の保管が最優先です。あわせて、事業用とプライベートの口座を分けておくと、調査がスムーズになります。国税が重点的に見る5項目(消費税・国際化・富裕層・無申告・シェアエコ等)に自分が該当するなら、その領域の記録を特にていねいに整えてください。

書類は何年分保管しておけばいいですか?

原則7年が目安です。税務調査は通常3〜5年分、悪質な不正があれば最大7年分まで遡及されるため、帳簿・領収書・請求書は7年間保管しておくと安心です。

税務調査は1件あたりどのくらいの期間がかかりますか?

国税の事務計画資料では、営業等の所得者で1件あたり標準12.3日とされています。短期間で論点を絞る着眼調査は机上で0.8日ほどです。数日で終わるものではなく、ある程度の期間をかけて見られると考えておきましょう。

顧問税理士がいなくても税務調査に備えられますか?

備えられます。日々の記帳・証憑保管が基本の備えです。そのうえで、いざというときの相談先として、月額制の税務調査サポートを持っておく方法があります。スポットで税理士に依頼すると60万円以上かかることもあるため、費用を抑えた備えとして有効です。

税務のシロクマくん

この記事の監修者

税務のシロクマくん(税理士)

税務署一般部門、特官部門、国税局調査部で国税調査官を長年務め、その実績と経験を活かし、現在は税理士として税金や税務調査の情報を発信中。

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