ある日、税務署から1通の文書が届いた。あるいは電話がかかってきた。「税務調査ですか」「これは行政指導ですか」と確認した経験のある方は、実は多くありません。けれど、その違いを知っているかどうかで、対応の仕方も心構えも大きく変わります。
この記事では、東京国税局が令和5事務年度の統括官会議で配布した内部資料(情報公開法に基づき、適法に開示請求で入手したものです)と、国税通則法の規定をもとに、「税務署からの連絡」の正体を一つひとつ解きほぐしていきます。顧問税理士をつけていない個人事業主・フリーランスの方こそ、まず知っておきたい内容です。
この記事は「連絡が来た直後に、調査か行政指導かを見分けて対応する」ことに絞って解説します。事前通知を受けてから当日までの具体的な準備手順は税務調査の事前通知が来たら、調査全体の流れは税務調査の流れで扱います。
税務署から連絡が来た—まず最初に確認すべきこと
結論からお伝えします。税務署から連絡が来たときに、まず確認すべきことは一つです。
「これは『調査』ですか、それとも『行政指導』ですか」
東京国税局の内部資料には、納税者の予見可能性と手続の適正性を確保する観点から、納税者に接触する際には「調査」と「行政指導」のいずれであるのかを明示する、と書かれています。これは法令上の明文義務というよりは、東京国税局の内部運用として整理されている取扱いです。とはいえ、納税者の側から「どちらですか」と確認することは正当な行動ですし、税務署側もそれに答える前提で動いています。
どちらに該当するかで、納税者が受ける手続上の取扱いも、応答するときの心構えも大きく変わります。「区別をつけないまま進める」ことは納税者にとって不利益が大きくなりがちなので、最初の段階で確認しておく価値があります。
「調査」と「行政指導」の決定的な違い
では、「調査」と「行政指導」は何が違うのでしょうか。東京国税局の内部資料には、次のように定義されています。
| 区分 | 定義 |
|---|---|
| 調査 | 特定の納税者の課税標準等又は税額等を認定する目的で行うもの |
| 行政指導 | 課税標準等又は税額等を認定する目的で行う行為に至らないもの |
出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度 指示連絡事項」別添「行政指導の実施に当たっての基本的な考え方等」p.35-36(情報公開法に基づく開示請求により取得)
両者を分ける基準(メルクマール)は、資料の中で明確に示されています。それが「効果意思」という考え方です。
少し噛みくだいて説明します。税務職員が「あなたの所得税額は本来◯◯円ですよね、と決めにいくつもりで接触している」のか、それとも「事実関係を確認したり、申告内容を見直してもらうきっかけを作るために接触している」のか—。この心の中の「目的」によって、調査か行政指導かが決まる、ということです。
納税者から見れば心の中までは見えませんから、税務署側が「どちらの目的で来ているか」を明示する運用になっています。お尋ね文書や電話、訪問の冒頭で「これは調査です」「これは行政指導です」と告げる、というのが基本的な進め方です。
連絡が来たときの判別フロー
実際に連絡を受けたら、次の順で確認すると落ち着いて判断できます。
STEP 1 「これは調査ですか、行政指導ですか、別の手続のご案内ですか」と尋ねる
└─ 調査 → 事前通知の11項目(税目・年分・日時・担当者名など)を確認。日程は調整可。税理士に相談する時間を確保する
└─ 行政指導 → 計算誤りや書類不足などの確認依頼。自発的な見直しの範囲で対応。確定的に修正申告を迫られたら範囲を超えている可能性
└─ 来署依頼だけ → 行政指導の手段に来署依頼は使わない運用。目的(調査か案内か)を必ず確認
STEP 2 SMS・メールでリンク付き → まず詐欺を疑い、国税庁公式サイトや税務署で真偽を確認
行政指導の対象者4パターン—東京国税局の資料における整理
では、「行政指導」とはどんなときに実施されるのでしょうか。東京国税局の内部資料には、行政指導の対象者として次の4つの整理が示されています。
| 区分 | 対象 |
|---|---|
| イ 事後処理の対象者 | ①計算誤り ②保有情報や形式的審査の結果から申告書に明白な誤り ③税法の適用誤り ④添付書類未提出 |
| ロ 実態把握が必要な無申告者 | 所得があると見込まれるのに申告がない方 |
| ハ 記帳点検の対象者 | 主に白色申告者で帳簿の状態を確認する必要がある方 |
| ニ 局が別途指示した照会の対象者 | 国税局が特定のテーマで照会対象を指示している方 |
出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度 指示連絡事項」別添 p.37
たとえば、確定申告書に計算誤りがあった、添付すべき書類が抜けていた、というような場合は、「イ」の事後処理にあたります。税務署から「申告書のここを確認したい」という連絡が来たら、まずは「イ」の可能性を考えるとよいでしょう。
「ロ」の無申告者については、別の意味で注意が必要な区分です。所得があると思われるのに申告がない方に対して、税務署はまず行政指導として接触してくることがあります。なお、無申告事案は国税が3年連続で重点課題として掲げている5項目のひとつでもあります。重点5項目の全体像は、国税の重点5項目を3年連続資料で読み解いた記事でまとめていますので、ご自身が該当しそうかどうかの確認にお使いください。
行政指導は文書か電話が原則、来署依頼は使わない
もう一つ、行政指導について重要なポイントがあります。実施方法に関する原則です。
東京国税局の内部資料によると、行政指導は原則として「文書照会」または「電話」のいずれかで実施します。「税務署まで来てください」という来署依頼を、行政指導の手段として用いることはしない、と書かれています。理由は、納税者にとって「呼び出し=調査」と混同されやすいため、と説明されています。
例外もあります。実態把握が必要な無申告者に対しては、文書・電話に加えて、自宅を訪問しての事業概況聴取が認められています。また、白色申告者の記帳点検は、税務署員が訪問する形で実施されます。
ここで一つ補足しておきます。「税務署に来てください」という連絡だけで、それが必ず調査だと断定はできません。任意の照会、申告内容の説明依頼、各種手続の案内など、さまざまな目的で来署を求められるケースがあるからです。連絡を受けたら、冒頭で「これは調査ですか、行政指導ですか、それとも別の手続のご案内ですか」と根拠と手続を確認するのが、もっとも確実な対応です。
「調査」の事前通知—国税通則法と施行令が定める11項目
では、「調査」と告げられた場合、税務署はどんな情報を事前に通知してくれるのでしょうか。これは国税通則法第74条の9第1項と、同法施行令第30条の4をあわせて読むことで明らかになります。事前通知の対象は、実務上次の11項目に整理されています。
- 実地の調査を行う旨
- 調査を開始する日時
- 調査を行う場所
- 調査の目的
- 調査の対象となる税目
- 調査の対象となる期間
- 調査の対象となる帳簿書類その他の物件
- 調査の相手方である納税義務者の氏名及び住所又は居所
- 調査を行う当該職員の氏名及び所属官署
- 調査開始日時又は調査開始場所の変更に関する事項
- 調査の過程で、事前通知した事項以外について非違が疑われることとなった場合に、当該事項に関して質問検査等を行うことができる旨
難しい用語が並びますが、平たく言うと「いつ、どこで、誰が、何の税目を、何年分、どんな書類を見るために来るか」を、事前に文書または口頭で告げる、ということです。事前通知がないまま調査が始まる「無予告調査」もありますが、これは国税通則法第74条の10で限定された場合に限られます。
事前通知が来たら、税理士に相談する時間も、書類を整理する時間も、ある程度確保できます。「いきなり来た」と慌てる前に、まず通知の中身を冷静に確認することが大切です。実際に税務調査になった場合の1件あたりの追徴税額の目安については、個人の税務調査の追徴税額438万円の実態をまとめた記事で内部資料の数字を整理していますので、心構えの参考にしてみてください。
「行政指導」と明示しても禁止される3行為
ここで、納税者の方にぜひ覚えておいてほしいルールがあります。税務署側が「これは行政指導です」と明示した場合でも、次の3つの行為は東京国税局の内部資料で禁止と整理されています。
- 納税者に自発的な見直し等を求めることなく、確定的な非違として修正申告を勧奨すること
- 帳簿書類や申告書の内容について詳細に掘り下げた説明を求めるなど、「基礎的情報」という範囲を超えた情報の提供を求めること
- 基礎的情報の範囲内であっても、執拗に情報の提出を促すなど、自発的な意思に基づく協力の要請とは言い難い負担感を納税者に与えること
出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度 指示連絡事項」別添 p.36
かみ砕いて言うと、こういうことです。「行政指導」という枠でやってきたのに、実際には「税額の認定をしてやろう」という調査と変わらないやり方をする—これは内部運用のルールでも明確に禁じられている、ということです。
もし行政指導の連絡を受けて、「これは行政指導の範囲を超えているのではないか」と感じることがあれば、その場で踏み込んだ回答をする前に、一度立ち止まって相談するのが安全です。
国税の調査官からのSMSは原則使わない運用—詐欺との見分け方
最後にもう一つ、最近よく相談される内容に触れておきます。「税務署を名乗るショートメッセージ(SMS)が届いたが、本物か」という不安についてです。
東京国税局の内部資料には、官用携帯電話のSMS機能は、原則として国税組織外の方との連絡手段として利用しない、と明記されています。例外は限定的で、相手側から発信者確認のSMSを先に受信した場合や、再三の連絡にも応答が期待されず急を要する場合、といった条件が付きます。
あわせて、国税庁の公式サイトでも、国税庁・税務署をかたる不審なメール・電話・SMSへの注意喚起が出されています。「税金が未納です」「還付金があります」「リンクをクリックしてください」といったSMSが届いたら、まず詐欺の可能性を疑ってよい状況です。本物の税務署からの連絡は、原則として文書か電話。リンクをクリックする前に、最寄りの税務署や国税庁公式サイト(注意喚起ページ)で真偽を確認してください。なお、国税のIT化が進む現場で、SMSのほかにモバイルPC・携帯プリンタ・Web会議システムがどう使われているかは、税務調査のIT化最前線をまとめた記事でさらに詳しくお伝えしています。
出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度の課税部門共通の事務運営に当たっての基本的な考え方及び留意事項」p.21/国税庁公式「国税庁・税務署をかたる不審なメール・電話・SMSにご注意ください」
税務署からの連絡に関するよくある質問
税務署から連絡が来たら、まず何を確認すればいいですか?
最初に「これは『調査』ですか、それとも『行政指導』ですか」と確認してください。調査は税額を認定する目的で行うもの、行政指導はそこまでには至らない事実確認や見直しの依頼です。どちらかで手続も心構えも変わります。あわせて、対象の税目・年分・根拠を確認しておくと安心です。
税務署から「来署してください」と言われたら、税務調査ですか?
必ずしも調査とは限りません。東京国税局の内部資料では、行政指導の手段として来署依頼は用いない運用とされています。一方で、任意の照会や手続案内など別の目的で来署を求められることもあります。「これは調査ですか、行政指導ですか、別の手続の案内ですか」と冒頭で確認するのが確実です。
「お尋ね」の文書が届きました。これは税務調査ですか?
多くの場合、「お尋ね」は行政指導として送られます。計算誤りや添付書類の不足といった事後処理、無申告者への実態把握、記帳点検などが典型です。ただし、行政指導と明示しながら確定的な非違として修正申告を迫るのは、内部ルールでも禁止されています。範囲を超えていると感じたら、回答前に一度相談してください。
税務署を名乗るSMSやメールが届きました。本物ですか?
まず詐欺を疑ってよい状況です。国税の内部資料では、官用携帯のSMSは原則として組織外との連絡手段に使わないとされています。本物の連絡は原則として文書か電話です。「未納です」「還付金があります」「リンクをクリック」といったSMSは、リンクを開く前に国税庁公式サイトの注意喚起ページや最寄りの税務署で真偽を確認してください。
いざ「調査」と判明したときに頼れる備え
ここまでお読みいただいた方は、「調査」と「行政指導」の違い、そしてそれぞれの場面で確認すべきことが、ある程度イメージできたのではないかと思います。
とはいえ、税務署からの連絡を受けた瞬間、頭が真っ白になってしまうのが普通です。「これは調査と言われたが、どう対応すればいいのか」「事前通知の内容にどう答えればいいのか」「税理士に相談したいが、顧問契約はしていない」—そんな状況で、安心して相談できる窓口が手元にあるかどうかは、その後の展開を大きく左右します。
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