飲食店の税務調査|売上除外・まかないはなぜ狙われる?元国税調査官が備え方を解説

飲食店は税務調査の常連業種

申告漏れランキングに並ぶ飲食関連業種

国税庁が毎年公表している申告漏れ所得金額が高額な上位10業種。令和6事務年度のランキングには、飲食関連業種が3つもランクインしています。

令和6事務年度 申告漏れ所得金額が高額な上位10業種(飲食関連を抜粋)
順位 業種 申告漏れ所得 追徴税額
1 キャバクラ 4,164万円 1,474万円
6 バー 1,968万円 425万円
9 スナック 1,873万円 353万円

(出典:国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」)

過去の年度でも、令和4事務年度には焼肉(4位)とバー(9位)がランクインしています。「飲食店」という一般カテゴリではなく、焼肉、バー、スナックといった業態別にランクインしている点がポイントです。一般的な飲食店であっても、現金取引の多さという共通のリスク要因を抱えています。

なぜ飲食店が狙われるのか。それは、現金売上の比率が高く、売上の除外が他の業種に比べて行いやすい構造があるからです。税務調査が来る確率は業種によって大きく異なりますが、現金商売は国税庁の重点調査対象であることを知っておいてください。

「不正発見割合」が他業種より高い

飲食業は、調査を受けた件数のうち不正が見つかった割合(不正発見割合)が際立って高い業種です。令和6事務年度の法人税調査では、バー・クラブが62.3%、その他の飲食が45.2%と、全業種平均(約2割)を大きく上回りました。不正1件あたりの不正所得も、バー・クラブで4,466万円に上ります。

(出典:国税庁「令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要」)

税務署が飲食店に目をつけるきっかけ

飲食店が調査の俎上に上がる引き金は、現金商売だけではありません。次のようなシグナルが重なると、選定の対象に入りやすくなります。

・申告された売上が、立地・席数・客単価から推計される売上と大きく乖離している
・同業他店と比べて原価率や利益率が不自然に高い、または低い
・取引先(仕入業者など)への調査から、芋づる式に売上の不一致が判明する
・元従業員や取引先からの内部通報、匿名のタレコミ
・SNSの発信内容や暮らしぶりと、申告所得が見合っていない

とくにSNSは、調査官が日常的に確認している情報源の一つです。豪華な仕入れや繁盛ぶりを発信しているのに申告が小さいと、整合性を疑われます。

飲食店の税務調査で指摘されやすいポイント

売上の計上漏れ——現金商売の最大リスク

飲食店の税務調査で最も多い指摘が「売上の計上漏れ」です。現金で受け取った売上を帳簿に計上しない、レジを通さずにポケットに入れる。こうした行為は、調査官にとって発見しやすい不正です。

税務署は、調査の前に「内観調査」と呼ばれる手法を使うことがあります。調査官が一般客として来店し、客席数、客の回転率、客単価、決済方法(現金かキャッシュレスか)などを観察します。店主や店員の動き——注文の受け方、レジの打ち方、現金の扱い——も見ています。自分が支払った伝票がきちんと保管されているかを、後日の調査で確認するのです。

また、おしぼりや割り箸、紙ナプキンの仕入数と売上伝票数の整合性もチェックされます。仕入先への反面調査で食材の仕入量を把握し、そこから「理論上の売上高」を逆算して、申告額との乖離を指摘するという手法も使われます。

仕入れの水増しと原価率チェック

食材費(仕入高)は飲食店の最大の経費項目です。税務調査では、同業他店との原価率の比較が行われます。一般的な飲食店の原価率は30〜35%が目安とされています。原価率が不自然に高い場合、仕入れの水増しや架空仕入れを疑われます。

期末在庫の計上漏れも重点チェック項目です。決算直前に翌期分の食材を大量に仕入れて当期の経費に計上し、在庫として計上しない。このケースは利益の先送りとして否認されます。

人件費——架空給与とアルバイトの源泉徴収

飲食店はアルバイトやパートの入れ替わりが多く、人件費の管理が煩雑になりがちです。税務調査では、以下の点が確認されます。

まず、架空給与の有無。実在しない従業員への給与を計上していないか、タイムカードや出勤簿と給与台帳が整合しているかを調査官はチェックします。現金手渡しで給与を支払っている場合は特に疑われやすいため、銀行振込での支払いが推奨されます。

家族を従業員として雇っている場合は、「青色事業専従者給与に関する届出書」の提出が必要です。届出額を超える支払いは経費として認められません。

まかないの税務処理——見落としやすい盲点

飲食店ならではの論点が「まかない」の税務処理です。従業員に食事を無償で提供している場合、原則として「現物給与」に該当し、源泉徴収が必要になります。

まかないが非課税(給与として課税されない)になるには、次の2つの条件を両方とも満たす必要があります。

・従業員が食事代の半分以上を自己負担していること
・事業主の負担額が1か月あたり7,500円(税抜)以下であること

この条件を1円でも超えると、超過分だけでなく全額が給与として課税されます。求人広告に「まかない無料」と記載している場合、税務調査で目をつけられやすいポイントです。

(参考:国税庁「No.2594 食事を支給したとき」)

自家消費の計上漏れ——「ゼロ」はありえない

事業主やその家族がお店の食材を使って食事をした場合、その分は売上として計上する必要があります。これを「自家消費」と呼びます。

所得税法上の原則は通常の販売価額で計上することですが、所得税基本通達39-2により、仕入価額以上かつ販売価額のおおむね70%以上の金額であれば認められます。実務上は「販売価額の70%」と「仕入価額」のいずれか高い方が最低ラインです。なお、消費税法上は販売価額のおおむね50%以上かつ仕入価額以上の金額が課税標準となり、所得税と基準が異なる点にも注意してください。

確定申告書の「家事消費等」の欄が空欄の飲食店は、調査官にとって「申告が正確でない可能性が高い」と判断する一つの端緒になります。飲食店を営んでいて自家消費がゼロということは、通常考えにくいからです。

内装工事・改装費用——修繕費と資本的支出の判定

店舗の改装やリニューアルは飲食店にとって定期的に必要な投資です。この費用を全額「修繕費」として一括経費にしてしまうケースが散見されますが、税務調査で否認されやすいポイントです。

修繕費として認められるのは、原状回復や維持管理のための支出です。壁の塗り替えや設備の修理などが該当します。一方、店舗のレイアウト変更や設備のグレードアップは「資本的支出」となり、減価償却が必要です。

区分が不明な場合は、国税庁の形式基準が参考になります。20万円未満の支出、またはおおむね3年以内の周期で行われる修理は修繕費として処理できます。60万円未満の支出については、形式基準により修繕費として処理できる場合があります。ただし、形式基準に該当しない場合でも、修理の実態が原状回復の範囲にとどまる場合は修繕費として処理できるため、実質基準との総合判断が必要です。

(参考:国税庁「No.1379 修繕費とならないものの判定」)

交際費——私的な飲食の混入

飲食店の経営者は、自身も外食や会食をする機会が多い業種です。そのため、家族との食事や私的な飲み代を「接待交際費」「会議費」として経費に混ぜていないかは、調査官が必ず確認するポイントです。

経費にできるのは、あくまで事業に関係する支出だけです。誰と、何の目的で会ったのかを領収書の裏などに記録しておくと、調査の際に説明がしやすくなります。同業の知り合いとの情報交換や、仕入先との打ち合わせなど、事業との関連が説明できる支出に限って計上してください。

飲食店の消費税——軽減税率とインボイスの注意点

テイクアウト8%とイートイン10%の区分管理

飲食店にとって消費税の最大の論点は、軽減税率の区分管理です。店内飲食(イートイン)は消費税10%、テイクアウトや出前は8%の軽減税率が適用されます。

テイクアウトとイートインの両方に対応している店舗は、レジや会計システムで正確に区分して管理する必要があります。税務調査では、テイクアウト比率の妥当性が検証されることもあります。実態と大きく異なる比率で申告していれば、指摘対象になります。

なお、食材の仕入れは酒類を除き8%の軽減税率が適用されるため、仕入れと売上で税率が異なるケースが日常的に発生します。

インボイス制度と簡易課税の選択

飲食店のインボイス対応は、主な客層によって判断が分かれます。

一般消費者がメインの店舗であれば、お客さんはインボイス(適格請求書)を必要としないため、免税事業者のままでも大きな影響はありません。一方、接待や商談で使われる機会が多い店舗は、法人客がインボイスを求めるため、登録を検討する必要があります。

課税事業者になった場合、飲食業は簡易課税制度で第4種事業(みなし仕入率60%)に該当します。簡易課税を選択すれば、仕入先のインボイスの有無を気にする必要がなくなるため、個人農家や小規模な食材業者から仕入れている場合でも影響を受けません。課税売上高5,000万円以下の飲食店は、簡易課税の選択が実務上の負担軽減になるケースが多いです。

インボイス登録を機に免税事業者から課税事業者になった方は、消費税の納税額を売上税額の2割とする「2割特例」を利用できます。ただし、この特例は令和8年9月までの課税期間で終了し、その後の時限措置については、公表資料に基づいて確認してください(2026年4月時点で内容の一部が確定していない部分があります)。過去には個人事業主向けに「2割特例」へ移行します。

飲食店ならではの税務調査の進め方

現金商売は「無予告調査」が入りやすい

飲食店を含む現金商売の事業者は、事前の連絡なしに調査官が突然訪れる「無予告調査」の対象になりやすい傾向があります。デジタル決済と違い、現金は記録が残りにくく証拠の隠滅が容易なため、「事前に調査を悟られてはならない」と判断されるケースがあるのです。

もちろん、通常の税務調査は事前に電話で連絡が入ります。調査日程は相談のうえ決まり、「税理士に相談してから折り返します」と伝えることもできます。しかし、無予告で来た場合も調査官には質問検査権がありますので、正当な理由なく拒否することはできません。税務調査を拒否した場合のリスクは事前に理解しておきましょう。

調査官は何を見ているのか

飲食店の税務調査では、調査官は帳簿だけでなく、店舗の現場も観察します。レジの伝票控え、仕入先からの納品書、通帳の入出金記録、クレジットカード決済の明細。これらを突き合わせて、売上と経費の整合性を確認します。

調査は一般的に1〜2日で終わりますが、問題が見つかれば追加の資料提出や調査日数の延長もあります。過去3〜5年分が調査対象となり、悪質な不正が認められた場合は最大7年まで遡及されます。さかのぼる年数の考え方は税務調査は何年分さかのぼる?で詳しく解説しています。

調査は内観・外観・現物確認の3段階で進む

飲食店の税務調査は、いきなり帳簿を見るわけではありません。調査官は段階を踏んで実態を把握します。

1段階目が内観調査です。調査官が一般客を装って来店し、客の入り、回転率、客単価、現金かキャッシュレスか、レジの打ち方などを内側から観察します。2段階目が外観調査です。店の立地、席数、営業時間、混雑状況などを外から確認し、推計売上の材料にします。3段階目が現物確認調査です。実地調査の当日に、レジ内の現金、伝票、在庫、納品書などを直接確認し、申告内容と突き合わせます。

内観・外観で「このくらいの売上はあるはず」という見立てを作ったうえで臨むため、申告額との差が大きいと、その理由を細かく問われることになります。

見つかったときのペナルティ

申告漏れが見つかると、不足していた本税に加えてペナルティが課されます。過少申告加算税は原則10〜15%です。期限内に申告していなかった場合の無申告加算税は、税額に応じて15〜20%(300万円を超える部分は30%)が課されます。そして、売上除外や二重帳簿など仮装・隠蔽が認定された場合は、重加算税(過少申告なら35%、無申告なら40%)という最も重いペナルティが上乗せされます。さらに納付が遅れた期間に応じて延滞税もかかります。

元国税調査官が教える飲食店の税務調査対策

レジ記録と帳簿を毎日一致させる

1日の営業が終わったら、レジの売上とレシートの合計、現金の残高を必ず照合してください。この日次の突合作業が最も基本的かつ効果的な対策です。差額がある場合は原因を記録しておきましょう。

仕入帳を整備し、原価率を管理する

食材の仕入れは日々発生します。仕入帳を整備し、月ごとの原価率を把握しておきましょう。自店の原価率が同業他店と比べて不自然に高くないか、低くないかを確認することで、税務調査での指摘リスクを減らせます。

まかない・自家消費は正直に計上する

まかないの提供条件を明確にし、従業員の負担額と事業主の負担額を記録してください。自家消費についても、月ごとの概算額を帳簿に記録する習慣をつけましょう。「ゼロ申告」は調査の端緒になります。

給与は銀行振込で支払う

アルバイトやパートへの給与は、できる限り銀行振込で支払ってください。振込記録は税務調査で最も客観的な証拠になります。現金手渡しの場合は、受領書への署名をもらうなど、支払いの事実を証明できる体制を整えましょう。

税理士の立会いという選択肢

無予告で調査官が来たとき、その場で一人で対応するのは大きな負担です。質問検査権がある以上、根拠なく拒否はできませんが、「税理士に連絡します」と伝えて立会いを求めることはできます。

とくに、税務調査の対応に慣れた税理士が同席すると、調査官とのやり取りを任せられ、誤った受け答えで不利になるリスクを減らせます。元国税調査官のように、調査官がどこを見て何を尋ねるかを知る側が味方にいると安心です。税理士なしで税務調査に対応するリスクもあわせて確認しておきましょう。

税務調査に備えておく

飲食店は他の業種に比べて税務調査が入りやすい傾向があります。しかし、日常的な記帳と書類整理ができていれば、過度に恐れる必要はありません。大切なのは、事前に税務調査の流れを知っておき、いざというときに慌てないことです。

まとめ:飲食店経営者こそ「毎日の記帳」が最大の防御

飲食店は現金取引の多さから、税務調査の重点業種です。売上の計上漏れ、仕入れの水増し、まかないや自家消費の処理ミス、内装工事の経費区分。指摘されやすいポイントは多岐にわたります。

税務調査は、来てから慌てるものではなく、日頃から備えておくものです。

もし税理士にスポットで税務調査対応を依頼すると、費用は60万円以上。ケースによっては100万円を超えることもあります。

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なお、「税務調査を拒否したらどうなるのか」という疑問をお持ちの方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。

税務調査が来る確率(個人事業主で年間約1%、法人で約1.7%)や、税務署がどのような基準で調査対象を選んでいるかについては、税務調査が来る確率は?個人事業主・法人別の実態で詳しく解説しています。

飲食店の税務調査に関するよくある質問

飲食店に税務調査が入る確率はどれくらいですか?

飲食業は税務調査の重点業種です。事業を続ける限り、いつ調査が来てもおかしくないと考えてください。調査を受けた件数のうち不正が見つかった割合は、バー・クラブで62.3%、その他の飲食で45.2%(令和6事務年度)と、全業種平均の約2割を大きく上回っています。現金商売である飲食店は、とくに狙われやすい構造を持っています。

飲食店の税務調査は何年分さかのぼりますか?

通常は過去3〜5年分が対象です。売上除外や二重帳簿など悪質な不正が認められた場合は、最大7年までさかのぼって調査されます。

現金商売だと無予告調査が来ますか?

飲食店を含む現金商売は、事前連絡なしの無予告調査の対象になりやすい傾向があります。ただし、その場で「税理士に連絡します」と伝えて立会いを求めることはできます。質問検査権があるため、正当な理由のない拒否はできません。

原価率はどのくらいが目安ですか?

一般的な飲食店の原価率は30〜35%が目安とされています。自店の原価率が同業他店と比べて不自然に高い、または低い場合、仕入れの水増しや売上除外を疑われる端緒になります。

税務のシロクマくん

この記事の監修者

税務のシロクマくん(税理士)

税務署一般部門、特官部門、国税局調査部で国税調査官を長年務め、その実績と経験を活かし、現在は税理士として税金や税務調査の情報を発信中。

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