2025年、札幌で衝撃的なニュースが報じられました。税務調査を受けた経営者たちが、札幌国税局の職員を公務員職権乱用罪や虚偽公文書作成罪で刑事告訴したのです。
「国税局」といえば、税金を正しく徴収するための機関です。多くの方が「国のやることだから間違いないだろう」と思っているのではないでしょうか。
この記事では、札幌で実際に報じられた2つの不当課税事例について、国税に長年勤めた元国税調査官のシロクマくんが、何が問題だったのかを解説します。
なお、これらの事案は現在も係争中です。最終的な司法判断が出るまで、どちらの主張が正しいかは確定していません。報道と公開情報に基づいて記載しています。
札幌国税局で何が起きたのか
事例1:借入金を売上に認定された「北祥事件」
2022年10月、恵庭市でパソコンなどの中古品を売買する会社「北祥」に、札幌国税局の職員が税務調査にやってきました。
HTB北海道ニュースの報道によると、調査後に国税局から提示された調査報告書には、経営者の林永誠社長が提出していないはずの「会社の売上額」が記載されていたとのことです。
林社長は取引先から事業資金を借りており、金銭消費貸借契約書も作成していました。ところが、国税局はこの借入金を売上として認定したとされています。
借入金と売上はまったく別物です。借入金は借りたお金で、いつか返さなければなりません。売上は事業の対価として受け取ったお金です。
北祥の担当税理士が「売上の申告漏れというなら、具体的な取引相手や金額を教えてほしい」と国税局に問い合わせたところ、「具体的な取引相手先は1件もわかっていない」という回答だったと報じられています。
当初、国税局からは583万円の追徴課税額が提示されました。しかし、税理士が課税の根拠を示すよう抗議したところ、約9ヶ月後に「追徴課税額を0円とする結論に至った」と連絡がありました。調査結果の説明も謝罪も一切なかったとされています。
北祥は、売上金額を捱造し不当な課税を強行しようとしたとして、札幌国税局の職員を公務員職権乱用罪などで刑事告訴しました。
事例2:修正申告を無視され約1億円を納税「コノヨシ事件」
2022年11月、札幌市内の人気洋食店「コノヨシ」を経営する古野生真社長のもとに、札幌国税局の職員がやってきました。
報道によると、調査の結果、コノヨシグループの一部店舗で、レジ操作により現金売上を除外していたことが発覚しました。古野社長はこの点を認め、税務調査に全面的に協力したとされています。
問題はここからです。
国税局から提示された追徴課税額は2種類ありました。A案は古野社長の会社に加えて知人が経営する別の店舗も対象としたもので約1兄3,000万円。B案は古野社長の会社のみで約8,000万円。
報道によると、知人が経営する店舗はのれん分けした独立店であり、古野社長の会社とは別の経営でした。にもかかわらず、国税局は知人の店舗を古野社長の会社の直営店として処理するよう求めたとされています。
その際、「差し押さえられるかもしれない」「査察調査に切り替わったら逆捕されるかもしれない」といった説明があったと報じられています。
古野社長は知人を守るために、事実と異なる内容の質問応答記録書にサインしてしまったとのことです。
その後、古野社長は別の税理士に見直しを依頼し、不当に課税されている箇所が複数見つかりました。正当な課税額で修正申告を提出しましたが、報道によると国税局は修正申告の内容を精査せず、一方的に更正処分を通知しました。
古野社長は、国に損害賠償を求める訴訟を札幌地裁に起こし、2025年8月には国税局職員を公務員職権乱用罪・強要未遂罪で刑事告訴しました。この刑事告訴は受理されています。最終的に古野社長は約1億円を納税しており、現在も東京地裁で処分取消請求訴訟が続いています。
2つの事例に共通する問題点
課税の根拠が曖昧なまま処分が進む
北祥の事例では、具体的な取引相手が「1件もわかっていない」にもかかわらず、売上の申告漏れと認定されたと報じられています。課税には根拠が必要です。根拠が曖昧なまま処分が進むのは、本来あってはならないことです。
質問応答記録書で事実と異なる内容を認めさせる
コノヨシの事例では、事実と異なる内容の質問応答記録書に経営者がサインさせられたとされています。
質問応答記録書は裁判の証拠にもなり得る重要な書類です。一度サインすると、その内容を認めたことになり、後から覆すのは非常に困難です。
説明責任の欠如
北祥の事例では、追徴額が583万円から0円に変わっても、説明も謝罪もなかったとされています。コノヨシの事例でも、更正処分を取り消して新たな処分を出した理由の説明がなかったと報じられています。
HTBの取材に対し、札幌国税局は「個別の事案についてはコメントを差し控えさせていただく」と回答しています。
元国税調査官として思うこと
国税の調査は常に適正とは限らない
多くの方が「国のやることだから正しいだろう」と考えがちです。
しかし、今回報じられた事例が示しているのは、税務調査が常に適正に行われるとは限らないという現実です。
もちろん、すべての調査官がこうした対応をしているわけではありません。真面目に公正な調査を行っている調査官のほうが圧倒的に多いです。しかし、一部にこうしたケースがあることは知っておくべきです。
HTBの報道では、東京国税局や国税不服審判所で長年勤務した経歴を持つ高橋達也税理士も、修正申告が提出されているにもかかわらずそれを踏まえずに更正するのは聞いたことがない、という趣旨のコメントをしています。
税理士なしでは対抗できない
2つの事例に共通するのは、当初は税理士がついていない、あるいは税理士の力が十分に発揮されていない状態で調査が進んでいたという点です。
税理士が介入してから状況が変わっています。北祥の事例では税理士が根拠を求めた結果、追徴額が0円になりました。コノヨシの事例でも、別の税理士に見直しを依頼してから不当な課税箇所が発覚しています。
税務調査に一人で対応することがいかに危険か、これらの事例が示しています。
不当課税から身を守るために知っておくべきこと
調書にサインする前に必ず税理士に相談する
質問応答記録書へのサインは任意です。内容に納得できなければ拒否できます。
「この内容では署名できません」「税理士に相談してからにします」
この一言が言えるかどうかで、結果は大きく変わります。
修正申告の拒否と不服申立ての権利
調査官に修正申告を求められても、納得できなければ拒否できます。拒否した場合、税務署は更正処分で税額を決定します。それに不服があれば、再調査の請求、審査請求、さらには訴訟で争うことができます。
まとめ──税務調査には必ず税理士をつける
今回紹介した2つの事例は現在も係争中であり、最終的な司法判断はまだ出ていません。
しかし、少なくとも言えることがあります。税務調査は、税理士なしで受けるべきではないということです。
調査官の言っていることが正しいのかどうか、一般の方が判断するのは極めて困難です。「こうするしかない」「こうしなければ大変なことになる」と言われれば、従ってしまうのは無理もありません。
だからこそ、税務調査には税理士が必要です。税務調査に強い税理士であれば、調査官の指摘が法的に正しいかどうかを判断でき、不当な課税に対して反論でき、調書へのサインを慎重に判断でき、納税者の権利を守ることができます。
税務調査のスポット対応を税理士に依頼すると、立会いから修正申告まで含めて60万円以上の費用がかかるのが一般的です。ケースによっては100万円を超えることもあります。
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参考情報:
- HTB北海道ニュース「追跡!国税局が文書偽造に不当課税?」(2025年9月24日)
- 一般社団法人不当課税対策プロジェクト