先日、ある方から税務調査に関する相談を受けました。
話を聞いて、正直、耳を疑いました。
「こんな調査が、今でも行われているのか」
国税に長年勤め、数多くの税務調査を実施・立会いしてきた元国税調査官の私でも、言葉を失うほどの内容でした。
この記事では、実際に相談を受けた事例をもとに、税理士なしで税務調査を受けることの危険性と、すべての納税者に知っておいてほしい権利についてお伝えします。
相談者の状況──7年間の無申告、税理士なし
無申告は珍しくない。しかし税理士なしは致命的だった
相談者は法人を経営していましたが、諸事情により7年間、法人税の申告をしていませんでした。いわゆる無申告状態です。
「忙しくて後回しにしていたら、気づいたら7年経っていた」
こういう話は実は珍しくありません。特に一人社長や小規模な会社では、日々の業務に追われて申告が後回しになってしまうケースがあります。
もちろん、無申告は良くないことです。それは間違いありません。しかし、だからといって、どんな調査をされてもいいということにはなりません。税務調査は適正に行われるべきです。
ある日、税務署から連絡がありました。「税務調査を実施します」と。7年間の無申告ですから、調査が来ても不思議ではありません。
問題は、この方が税理士をつけずに一人で調査に対応してしまったことです。
税理士なしの調査で何が起きたのか
調査の結果、この方は7年分の期限後申告を提出し、重加算税を賦課されました。追徴税額は数千万円。
しかし、問題は金額だけではありません。その調査内容があまりにもひどかったのです。
借入金を「売上」に認定された
この方は、取引先から事業資金を借りていました。金銭消費貸借契約書も作成していました。
ところが、調査官はこの借入金を売上として認定しました。
借入金は借りたお金です。いつか返さなければなりません。売上は事業の対価として受け取ったお金です。まったく別物です。
調査官は、通帳の入金記録だけを見て「これは売上でしょう」と決めつけました。契約書を見せても、信用できないと取り合ってもらえなかったそうです。
実際の状況がすべてわかるわけではないので、契約書に何らかの不備があった可能性もあります。しかし、契約書の存在自体を無視して通帳の入金だけで売上と認定するのは、あまりにも乱暴です。
経費を「役員報酬」に認定された
事業に必要な経費として支出していたものを、調査官は役員報酬として認定しました。
役員報酬として認定されると何が起きるか。定期同額の要件を満たさない役員報酬は法人の損金として認められなくなります。さらに、個人の所得としても課税されます。
法人税と所得税の両方で税金が増えるダブルパンチです。
経費の内容を説明しても、「それは役員への支払いでしょう」と押し切られたそうです。
質問応答記録書で事実と異なる内容を認めさせられた
最もひどかったのがこれです。
質問応答記録書とは、調査の中で納税者に質問した内容と回答を記録した書類です。裁判の証拠にもなり得る重要な書類です。
調査官は、この書類を作成するにあたって、調査官に都合の良いストーリーを組み立て、相談者にそれを認めるよう迫ったそうです。
「こう言ってください」「こう書いてください」
相談者は、税務の知識がないまま、言われるがままに調書にサインしてしまいました。
なぜこんな調査がまかり通ったのか
税理士がいなければ反論する人がいない
ここまで読んで「そんなことがあるのか」と思った方もいるかもしれません。残念ながら、あります。
特に、無申告で、かつ税理士がついていない納税者は、こうした強引な調査のターゲットになりやすいです。
理由は単純です。反論してこないからです。
税理士がいれば、「それはおかしい」「法的根拠は何ですか」「契約書を確認してください」と、調査官と対等に議論できます。
しかし、税務の知識がない一般の方が、調査官を相手に反論するのはほぼ不可能です。調査官は税務のプロです。法律も判例もすべて頭に入っています。その相手に素人が一人で立ち向かうのは、丸腰で戦場に行くようなものです。
おそらく資料調査課(リョウチョウ)の案件
ここからは私の推測ですが、この調査はおそらく国税局の資料調査課(通称リョウチョウ)の案件だったのではないかと思います。
リョウチョウは、多額の不正所得が見込まれる事案を重点的に調査する部門です。調査官には成果が求められ、追徴税額を上げることが実績になります。
7年間の無申告。しかも税理士なし。リョウチョウにとっては「成果を出しやすい案件」だったのでしょう。
取引の正当性を示す証拠があったにもかかわらず、それは無視され、都合の良い通帳の記録だけが採用され、数字が作り上げられていった。そういうことだと思います。
知っておくべき納税者の4つの権利
すべての納税者に知っておいてほしいことがあります。税務調査において、納税者には権利があります。
税理士に依頼する権利
税務調査には、税理士を立ち会わせることができます。これは法律で認められた権利です。調査官に「税理士を呼びたい」と言えば、調査を中断してもらえます。
調査官の指示に従わなくていい
調査官の言うことがすべて正しいわけではありません。「こうしなさい」と言われても、納得できなければ従う必要はありません。「持ち帰って検討します」「税理士に相談します」と言えばいいのです。
調書へのサインを拒否できる
質問応答記録書へのサインは任意です。内容に納得できなければ、サインを拒否できます。「この内容では署名できません」と言えばいいのです。
今回の事例で最も悔やまれるのは、事実と異なる内容の調書にサインしてしまったことです。一度サインした調書は、後から覆すのが非常に困難になります。
修正申告を拒否できる
調査官に「修正申告をしてください」と言われても、納得できなければ拒否できます。
拒否した場合、税務署は「更正」という形で、税務署側の判断で税額を決定します。それに不服があれば、再調査の請求(税務署長に対して)、審査請求(国税不服審判所に対して)、さらには訴訟で争うことができます。再調査の請求を経ずに直接審査請求することも可能です。
重加算税の重さを知っておく
今回の事例では重加算税が賦課されています。
重加算税とは、意図的に税金を少なくしようとした(仮装・隠蔽があった)場合に課されるペナルティです。
無申告の場合、通常の無申告加算税は15〜30%ですが、仮装・隠蔽が認められると重加算税40%が課されます。過少申告の場合でも重加算税は35%です。
今回の事例では、調査官が作り上げたストーリーを調書に残すことで、仮装・隠蔽の根拠が作られ、重加算税が課されたのだと思われます。
まとめ──税理士なしで税務調査を受けてはいけない
この相談者には明らかな失態がありました。税務署が来た時点で、税理士に対応を依頼しなかったことです。
7年間の無申告という弱みがあったからこそ、なおさら専門家の力が必要でした。
「税理士に頼むとお金がかかる」「自分でなんとかなるかもしれない」
そう思ったのかもしれません。しかし結果として数千万円の追徴税額を背負い、今では分割納付の相談をしている状態です。税理士への報酬は数十万円から数百万円。それで数千万円の追徴を防げたかもしれないのです。
もちろん、すべての調査官がこうした強引な調査をするわけではありません。真面目に公正な調査を行っている調査官もたくさんいます。しかし、一部にはこういうケースがある。それが現実です。
税務調査のスポット対応を税理士に依頼すると、立会いから修正申告まで含めて60万円以上の費用がかかるのが一般的です。ケースによっては100万円を超えることもあります。
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