確定申告をしているけれど、自分が税務調査の対象になるかは正直よくわからない。シェアリングエコノミーや副業で少し稼ぐようになったが、どこまで国税にチェックされているのか不安だ—。そんな声をよくお聞きします。
そこでこの記事では、東京国税局が令和4年・令和5年・令和6年の3つの事務年度で配布した内部資料(情報公開法に基づき、適法に開示請求で入手したものです)から、国税が「重点課題」として明示している5つの取組を整理して、ご自身が該当するかどうかを確認できるようにお伝えします。3年連続で内容が変わっていないという事実は、これが一時的なキャンペーンではなく、国税組織が中長期で取り組んでいるテーマであることを示しています。
国税が「重点課題」と明示している5項目
東京国税局の内部資料には、実地調査における「重点課題」として、次の5つの取組が明示されています。
| 番号 | 重点課題 |
|---|---|
| ① | 消費税の適正課税の確保への取組 |
| ② | 国際化への取組 |
| ③ | 富裕層への取組 |
| ④ | 無申告事案への取組 |
| ⑤ | シェアリングエコノミー等新分野の経済活動への取組 |
出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度の課税部門共通の事務運営に当たっての基本的な考え方及び留意事項」p.4(情報公開法に基づく開示請求により取得)
記事の後半で、それぞれの項目を「個人事業主・フリーランスから見たときに何が論点になるか」という視点で見ていきます。
3年連続で変わらない—令和4・令和5・令和6の経年比較
同じ「重点5項目」が、令和4年・令和5年・令和6年の3つの事務年度を通じて、内容も順序もほぼ変わらず継承されています。
| 事務年度 | 出典資料 |
|---|---|
| 令和4事務年度 | 東京国税局 課税部門共通資料 p.17 |
| 令和5事務年度 | 東京国税局 課税部門共通資料 p.4 |
| 令和6事務年度 | 東京国税局 令和6年7月全管特官・統括官会議資料 p.5 |
出典:いずれも情報公開法に基づく開示請求により取得した行政文書。
3年連続で変わらない、というのはどういう意味でしょうか。シンプルに言えば、「今年の流行りの取組」ではなく、国税組織が中長期で継続的に取り組んでいるテーマだ、と読み取れます。「今年だけ厳しい」と先送りで対応できる類のものではない、と理解しておくのが安全です。
① 消費税の適正課税—インボイス制度開始後の論点
5項目の1つめは消費税です。令和5年10月にインボイス制度(適格請求書等保存方式)が始まったことで、これまで免税事業者だった個人事業主の方の中にも、適格請求書発行事業者として登録を受けたことで課税事業者になった方が大勢いらっしゃいます。
同じ国税内部資料では、消費税の実地調査における重加算税の賦課割合が35.6%と記載されています。これは個人課税部門全体の調査における賦課割合11.9%と比べてかなり高い水準です。これは、隠蔽・仮装などの加算税要件に該当する事案が、消費税の場合に他の税目より多く認定されているという傾向を示しています。インボイス制度開始後の最初の数年は、申告の組み立てに慣れていないことで結果的に正確性を欠くケースが出やすい時期でもあり、特に丁寧な対応が求められます。
なお、重加算税は過少申告加算税や無申告加算税に代えて課される附帯税で、税率は原則35%または40%、要件に該当するとさらに加重されます。
出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度 個人課税部門の事務運営に関する参考資料(資料1別冊)」p.15
② 国際化—海外取引や海外口座のチェック
2つめは「国際化」です。海外との取引、海外資産の保有、海外送金などが論点になります。この項目は、海外取引のない国内完結型の個人事業主・フリーランスの方には直接の関係が薄いテーマです。読み飛ばしていただいても構いません。
ご参考として一点だけお伝えすると、日本の国税は、CRS(共通報告基準)と呼ばれる国際的な仕組みで、世界各国から非居住者の金融口座情報を受け取っています。同じ内部資料では、令和4年7月から12月までの半年間で、約257万件の口座情報を受領している、と記録されています。海外口座を活用した取引は、国境を越えて把握される仕組みが整ってきている、ということです。
出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度 個人課税部門の事務運営に関する参考資料(資料1別冊)」p.14・p.36
③ 富裕層—一定の資産・所得規模を持つ方
3つめは「富裕層」です。同じ内部資料では、富裕層を3つの階層(重点管理富裕層・上位富裕層・継続2管理対象者)に分けて管理する体制が示されています。ただし、具体的にどの所得水準・資産水準から「富裕層」にあたるか、という基準そのものは、開示資料の中では明らかにされていません。
こちらも、月収・年収ともに堅実な水準で事業を回している個人事業主・フリーランスの方には、直接の対象になりにくいテーマです。一方で、相続や事業売却で大きな資産が動いた、海外資産を保有している、複数の事業体を持っている—こうした方は、個別の状況によっては該当域に入る可能性があります。
出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度 個人課税部門の事務運営に関する参考資料(資料1別冊)」p.40
④ 無申告事案—事業の規模に関係なく該当しうるテーマ
4つめは「無申告事案」です。これは個人事業主・フリーランスの方にとって、もっとも身近な重点課題かもしれません。
「無申告」とは、本来であれば確定申告をすべき所得があるのに、申告をしていない状態を指します。ここで一つ大切な前置きを。税務署への開業届の提出と、確定申告の義務とは別の話です。開業届を出していないからといって申告義務がなくなるわけではありません。
所得があるかどうかと、確定申告の要否は、所得の種類や金額によって判定されます。たとえば給与所得者の年末調整が済んでいる方でも、副業の所得が一定額(給与所得者の場合は20万円)を超えると申告が必要になる、といった個別の判定があります。ご自身がどの判定に該当するかは、国税庁のタックスアンサー(No.1900 給与所得者で確定申告が必要な人 など)で確認できます。なお、所得税の確定申告が不要なケースであっても、住民税の申告がお住まいの市区町村に対して別途必要になる場合があります。判断に迷う場合は、税務署や市区町村の窓口、税理士にご相談ください。
国税は、銀行口座の入出金、各種プラットフォームからの収入情報、不動産の登記情報、SNSでの活動情報など、複数のルートからの資料情報等に基づき、無申告者が把握される仕組みを整えてきています。なお、税務署が更正・決定等を行える期間は原則5年、偽りその他不正の行為があった場合は7年までさかのぼれる、と国税通則法で定められています。複数年にわたって無申告のまま放置していると、まとめて指摘されるリスクがある、ということです。
出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度の課税部門共通の事務運営に当たっての基本的な考え方及び留意事項」p.4/国税通則法第70条/国税庁タックスアンサー No.1900「給与所得者で確定申告が必要な人」
⑤ シェアリングエコノミー等—メルカリ、Uber、YouTubeなど
5つめは「シェアリングエコノミー等新分野の経済活動」です。これは個人事業主・副業フリーランスの方にもっともホットなテーマです。
具体的には、次のような収入が含まれます。
- メルカリ、ヤフオク、ラクマなどのフリマアプリ・ネット販売
- Uber、出前館、Wolt、Amazon Flexなどの配達代行
- Airbnbなどの民泊
- ココナラ、ランサーズ、クラウドワークスなどのスキルシェア
- YouTube、TikTok、ライブ配信の広告・投げ銭収入
- アフィリエイト収入
同じ国税内部資料には、個人課税部門の実地調査のうち、シェアリングエコノミー等として集計された事案について、1件あたり平均約747万円の追徴税額が記録されています。「副業だから」「趣味の延長だから」と申告を後回しにしてきた方も、複数年分まとめて指摘されると、ここまでの金額に達することがある、ということです。
国税はシェアリングエコノミー分野について、資料源の開発・情報収集を継続的な重点取組として位置づけてきました。プラットフォーム経由の収入は、申告と突合される可能性を前提に組み立てておくのが安全です。シェアエコ事案の追徴税額の内訳や、メルカリ・Uber・YouTubeなど業態別の確定申告論点については、副業の税務調査と平均追徴747万円の実態をまとめた記事で詳しくお伝えしています。
出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度 個人課税部門の事務運営に関する参考資料(資料1別冊)」p.16
該当する場合・該当しない場合、それぞれの備え方
ここまでお読みいただいて、ご自身の状況に当てはまる項目があったでしょうか。①〜⑤のどれかにヒヤッとした方も、「自分にはそこまで関係なさそう」と感じた方も、それぞれの立ち位置で押さえておきたいことがあります。
該当しそうな項目がある方は、まず申告内容を一度見直すこと。特に⑤シェアエコは、プラットフォームごとの取引履歴を整理しておくと、いざというときに調査官への説明がスムーズになります。①消費税のインボイス対応については、課税事業者になってからの帳簿の組み立てをご自身でも追っておくのがおすすめです。
「自分にはそこまで関係なさそう」と感じた方も、油断は禁物です。個人課税部門全体の調査(営業等所得者・富裕層・国際取引・シェアエコ等を含む)では、1件あたり平均約438万円の追徴という数字が出ています(数字の内訳や中央値については個人の税務調査の追徴税額438万円の実態をまとめた記事で詳しく整理しています)。重点5項目に「明確に」該当しなくても、たとえば帳簿の整理が後回しになっている、領収書の保管が不十分、というだけで、いざ調査になったときの説明難易度はぐっと上がります。なお、国税が「真に調査すべき者」と呼ぶ3カテゴリや、調査対象を絞り込むデータ選定の仕組み(SAT・RIN・結)については、税務調査の対象を絞るデータ選定の最前線をまとめた記事でさらに詳しく整理しています。
「もしも」のときに頼れる備えとして
税務調査は、原則として事前通知が行われる仕組みになっています。とはいえ、通知を受けてから実地までの期間は短いことが多く、無予告調査となる場合もあります。心の準備や資料整理が間に合わないと、慌てやすい局面であることに変わりはありません。事前通知の11項目の中身や、税務署からの連絡が「調査」なのか「行政指導」なのかの見分け方は、税務署から連絡が来たときの調査と行政指導の違いをまとめた記事で詳しくお伝えしています。
シロクマくん税務調査あんしんメンバーシップは、長年国税で調査現場に立ってきた元国税調査官(シロクマくん)が運営する、税務調査のための備えのメンバーシップです。顧問税理士をつけているわけではないけれど、いざというときに頼れる場所が欲しい—そんな個人事業主・フリーランスの方々のために設計しました。
万一、税務調査の対応をスポットで税理士に依頼する場合(単発の税務調査立会・対応の依頼を想定した一般的な相場として)、費用は60万円以上が目安で、ケースにより高額化することがあります。シロクマくん税務調査あんしんメンバーシップなら、月額 約1,000円〜(年払いあり)で備えられます。月額換算で見た場合、スポット依頼の10分の1以下のコストに収まる水準で、日頃から備えておけるサービスです。
重点5項目は、ここ数年で大きく変わっていません。来てから慌てる前に、月額 約1,000円〜の備えを今日から始めてみませんか。