個人の税務調査、1件平均438万円—国税内部資料で読み解く実態

シロクマくんが書類を虫眼鏡で覗く—個人の税務調査の追徴税額438万円のイメージ

「税務調査なんて、自分のような小規模事業者には関係ないだろう」。そう思っている個人事業主やフリーランスの方は少なくありません。けれど、国税が内部資料で示している実際の数字を見ると、その認識はかなり危ういものだと分かります。

この記事では、東京国税局が令和5事務年度の統括官会議で配布した内部資料(情報公開法に基づき、適法に開示請求で入手したものです)から、個人課税の税務調査の実態をお伝えします。1件あたりの追徴税額、調査官が1件にかける標準事務量、特に注視されている業種—。数字は淡々と、しかしはっきりとした現実を映しています。

個人の税務調査、1件あたり平均いくら追徴されているか

結論からお伝えします。令和4事務年度に処理された個人課税部門の税務調査では、1件あたりの追徴税額が平均約438万円となっています。

ここで一つ前置きをさせてください。この「438万円」は、個人課税部門全体の平均値です。具体的には、営業等所得者(いわゆる個人事業主・フリーランス)に加えて、富裕層、海外取引者、シェアリングエコノミー事業者など、個人課税が担当する全カテゴリの調査をひとまとめにした数字です。「自分のような小さな事業者には関係ない」と感じる方もいるかもしれません。けれど、後ほど触れるように、この平均には個人事業主の方々が広く含まれています。

出典はこちらです。東京国税局 課税第一部 個人課税課が令和5年8月の統括官会議で配布した「令和5事務年度 個人課税部門の事務運営に関する参考資料(資料1別冊)」の調査事績ページ。これは情報公開法に基づき、正規の開示請求で取得した行政文書です。

国税内部資料が示す令和4事務年度の実数

もう少し詳しく見ていきましょう。資料に記載されている個人課税部門全体の調査事績は、次のとおりです。

項目 令和4事務年度
1件あたり追徴税額(平均値) 約438万円
追徴税額の中央値 約135万円
重加算税の賦課割合 11.9%
総追徴税額 約347億3,400万円

出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度 個人課税部門の事務運営に関する参考資料(資料1別冊)」p.11(情報公開法に基づく開示請求により取得)

表の中で注目したいのは「平均値」と「中央値」の違いです。平均値の約438万円に対して、中央値は約135万円。中央値は、調査を受けた方々を追徴税額の少ない順に並べたときにちょうど真ん中に位置する金額のことです。平均値と中央値が3倍以上離れているのは、追徴税額が数千万円規模の大口事案がいくつかあり、それが平均を押し上げているからです。

中央値の135万円という金額は、決して低いとは言えません。急に「払ってください」と言われて、すぐに用意できる方は多くないはずです。

そしてもう一つ。重加算税の賦課割合11.9%は、約9件に1件のペースで重加算税が課されている、ということを意味します。重加算税は、過少申告加算税や無申告加算税に「代えて」課される附帯税で、税率は原則35%または40%。一定の要件に該当するとさらに加重され、最大で50%に達する場合もあります。「悪質」と判定された場合のペナルティ、と理解してください。決して稀な話ではありません。

国際取引は平均1,320万円、シェアエコは747万円—種類別の格差

「438万円」という全体平均は、調査の種類別に分解するとさらに具体的な姿が見えてきます。同じ内部資料には、次のような数字が記載されています。

調査の種類 1件あたり追徴税額
海外取引・国際事案 約1,320万円
シェアリングエコノミー等 約747万円
一般担当の調査 約299万円
消費税の実地調査 約222万円

出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度 個人課税部門の事務運営に関する参考資料(資料1別冊)」p.14-16

シェアリングエコノミーの数字に注目してみましょう。メルカリ・ヤフオクなどのネット販売、Uberや出前館などの配送業務、Airbnbの民泊、YouTubeの広告収入—。こうした「新しい働き方」で得た収入をきちんと申告していなかった場合、1件あたり平均で約747万円の追徴という実態があります。

「副業だから少額だろう」と思っていた方も、複数年分まとめて指摘されると、合計で数百万円規模になることは珍しくありません。なお、税務署が更正・決定等を行える期間は原則として5年です。偽りその他不正の行為があった場合は7年までさかのぼれる、と国税通則法で定められています。

もう一つ、海外取引・国際事案の1,320万円という数字も無視できません。国内の調査平均(438万円)の約3倍です。海外取引や海外資産で利益を得ている個人事業主が、いかに国税にとって注視対象になっているかを示しています。なお、シェアリングエコノミーの平均追徴747万円の中身や業態別の論点については、副業の税務調査と平均追徴747万円の実態をまとめた記事でさらに詳しく整理しています。

調査官が1件にかける標準事務量12.3日—国税公式の計画値

次は、調査にかかる「日数」の話です。同じく東京国税局の内部資料には、調査官が1件の調査にかける標準事務量が業種別に明記されています。

業種・対象 標準事務量(計画値)
営業等所得者(個人事業主) 12.3日程度
農業所得者(申告あり) 13.3日程度
農業所得者(無申告) 6.0日程度
その他所得者 9.3日程度
調査1年目の職員(目安) 7.0日

出典:東京国税局 課税第一部 個人課税課「令和5事務年度の事務計画等の策定について」p.18 ※ 数値は事務量配分の計画値で、調査の実期間とは異なります。

ここで大切な前置きをします。この「12.3日」は、調査が始まってから終わるまでの「期間」ではありません。あくまで国税内部で組まれる「事務量配分」の計画値、つまり調査官1人が1件の事案にかける「のべ稼働日数」の目安です。

実際の調査は、書面のやり取りや日程調整を含めて、目安として数か月にわたって続くことが多くあります。営業等所得者の場合、調査官は1件におよそ12.3日分の稼働を投下する計画でスケジュールを組んでいる、と理解してください。

もう一つ補足しておきたい点があります。表の「調査1年目の職員:7.0日」は、調査経験の浅い職員に割り当てられる事務量の目安です。「営業等所得者:12.3日」は業種別の標準値であり、両者は集計の切り口が違うため、単純に「ベテランは12.3日、新人は7.0日」と比較できるものではありません。あくまで参考として、業種別の標準と新人職員の目安の両方が内部資料に明記されている、というレベルでお読みください。

「机上で完結する事案」もある—事務量配分の8:2

同じ内部資料には、もう一つ大事な数字が出てきます。「着眼調査(机上)」と呼ばれるタイプの調査は、1件あたり0.8日程度の事務量で処理されると記載されています。

「机上調査」とは、調査官が事業所に来訪する「実地調査」ではなく、書面や資料だけで申告内容を確認・是正する手続きを指します。お尋ね文書が届いたり、税務署で書類を見ながら説明を求められたり、という形が典型的です。

そして国税は事務量配分の原則として、こう内部指示を出しています。実地調査に80%以上、簡易な接触(机上調査など)に20%以下、という配分です。

言い換えると、調査官が実際に事業所に行く「実地調査」に8割の事務量を投下する、というのが基本方針です。書面で済む案件は効率よく短時間で処理し、「腰を据えて取り組む価値がある」と判断した事案には集中的に人と時間を投下する—これが国税の標準的なやり方ということになります。

「お尋ね文書が来た」段階で焦りすぎる必要はありません。けれど、書面のやり取りの中で気になる点が出てくれば、後日実地調査に切り替わることもあります。机上での確認は、あくまで入り口、と捉えておくと冷静に対応しやすくなります。

なぜ個人事業主が「重点5項目」のターゲットなのか

ここまでお伝えした数字を踏まえて、改めて「なぜ個人事業主が注視されやすいのか」を見ていきましょう。同じ国税の内部資料には、令和5事務年度の実地調査における「重点課題」として5項目が明記されています。

  1. 消費税の適正課税の確保への取組
  2. 国際化への取組
  3. 富裕層への取組
  4. 無申告事案への取組
  5. シェアリングエコノミー等新分野の経済活動への取組

この5項目のうち、個人事業主・フリーランスの方が該当する可能性が高いのは①消費税、④無申告、⑤シェアエコです。具体的に見てみます。

①の消費税については、令和5年10月にインボイス制度が始まり、これまで免税事業者だった個人事業主の方の中にも、適格請求書発行事業者として登録を受けたことで課税事業者となった方が大勢いらっしゃいます。免税から課税に切り替わった初年度の申告は、国税にとって特に審査の目が向きやすい領域です。実際、消費税調査での重加算税の賦課率は35.6%と、全体の11.9%に比べて高い水準にあります。

④の無申告は、収入があるにもかかわらず確定申告をしていないケースを指します。ここで一つ補足しておくと、税務署への開業届の提出と、確定申告の義務は別の話です。開業届を出していなくても、所得があれば確定申告の義務が発生します。SNSや銀行口座の入出金などから、国税は無申告の方を把握する仕組みを整えています。

⑤のシェアエコは、先ほど触れたメルカリ、ヤフオク、Uber、出前館、Airbnb、YouTube広告収入などです。「副業だから」「趣味の延長だから」と申告を後回しにしがちな領域ですが、国税はプラットフォーマー(運営会社)から取引情報の提供を受ける仕組みを整えてきました。「気づかれないだろう」という前提では、対応しきれないのが現状です。

言い換えれば、国税が見ている「重点」は、必ずしも「大金持ち」だけではありません。むしろ、フリーランスとして数年間稼いできた方、副業で意外と稼げている方、開業届を出していないまま事業を続けている方—こうした方々こそ、重点項目に近い位置にいる、と理解しておくほうが安心です。重点5項目それぞれの中身や、令和4年・令和5年・令和6年の3年連続で内容が変わっていない事実については、国税の重点5項目を3年連続資料で読み解いた記事で詳しくお伝えしています。

メンバーシップで備えるという選択肢

ここまで読んでくださった方の中には、「じゃあ、どうすればいいのか」と感じている方も多いはずです。なお、税務署から実際にお尋ね文書や電話が届いた場面で、それが「調査」なのか「行政指導」なのかを見分ける方法については、税務署から連絡が来たときの調査と行政指導の違いをまとめた記事で整理しています。あわせて押さえておくと、いざというときの初動が落ち着きます。

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税務のシロクマくん

この記事の監修者

税務のシロクマくん(税理士)

税務署一般部門、特官部門、国税局調査部で国税調査官を長年務め、その実績と経験を活かし、現在は税理士として税金や税務調査の情報を発信中。

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