札幌国税局が刑事告発された?違法な税務調査、不当課税は果たして実際にあったのか?

本記事は、2025年に公開されたHTB北海道ニュース等の公開情報をもとに、税務調査時の注意点を一般的に解説するものです。紹介する事案には係争中のものが含まれ、事実認定は今後の手続・裁判等で変更される可能性があります。本記事は特定の機関・個人の違法性を断定する趣旨ではなく、個別事案は必ず専門家にご相談ください。

こんにちは、税務のシロクマくんです。元国税調査官として長年勤めた経験から、税務調査の現場で実際に起きていることをお伝えしていきます。

2025年、税務調査をめぐる衝撃的なニュースが報じられました。税務調査を受けた経営者たちが、札幌国税局の職員を公務員職権濫用罪などで刑事告訴・告発したと報じられたのです。

「国のやることだから間違いないだろう」と多くの方が考えがちな税務調査。しかし、報道された事案を知ると、その前提が揺らぐかもしれません。

本記事では、報道された2つの税務調査トラブル事例をご紹介し、一般の事業者が税務調査に向き合う際に何を備えるべきかを、元国税調査官の立場から解説します。

報道された2つの税務調査トラブル事例

まずは、2025年にHTB北海道ニュースなどで報じられた事案を、実名は伏せたうえで概要をご紹介します。

事例1:借入金が「売上」として課税されかけたA社のケース

2022年10月、ある中古品売買会社(以下「A社」)に、札幌国税局の職員が突然訪れて税務調査が始まったと報じられています。A社の社長は外国出身の方で、初日に様々な書類を持ち帰られ、翌日から「これが変」「載っていない」と指摘が始まったとされます。

調査開始から約1か月後、国税局から提示された追徴課税額は2015年からの7年分で約1,200万円。A社の社長が「高額で払えない」と伝えたところ、10日後には約430万円(当初の約3分の1)に減額された調査報告書が提示されたと当事者は主張しています。減額の明確な根拠は示されなかったとされます。

ここで、当事者が問題視する点が明らかになったと報じられています。国税局から提示された調査報告書には、A社の社長が提出していないはずの「会社の売上額」が記載されていたというのです。

A社は取引先から事業資金を借り入れており、金銭消費貸借契約書も作成していたにもかかわらず、国税局はこの借入金を「売上」として認定していたと当事者は主張しています。

担当税理士が「売上が正しく申告されていないというなら、具体的な取引相手や金額を教えてほしい」と国税局に問い合わせたところ、「具体的な取引相手先は1件もわかっていない」という回答が返ってきたと報じられています。

調査開始から約9か月後、国税局からは「追徴課税額を0円とする結論に至った」との連絡があったと報じられています。報道上は、1,200万円→430万円→0円と推移したとされています。最終的に追徴課税はなくなったものの、調査結果の説明や謝罪は一切なかったと当事者は主張しています。

A社は、「売上金額が実態と異なる形で扱われ、不当な課税が試みられた」との主張に基づき、札幌国税局の職員を公務員職権濫用罪などで刑事告訴したと報じられています。

時期 報道された出来事
2022年10月 税務調査開始
約1か月後 約1,200万円の追徴課税額が提示
10日後 約430万円に減額された報告書を提示
約9か月後 「追徴課税額0円」と通知
その後 A社が札幌国税局職員を刑事告訴

解説(借入金と売上の違い):借入金は借りたお金で、いつか返さなければならないものです。一方、売上は事業の対価として受け取ったお金です。通帳に入金があったからといって、それが売上とは限りません。ただし契約書があれば必ず借入金として認められるとも限らず、取引の実態が伴うかどうかが重要となります。

事例2:修正申告が踏まえられず約1億円を納税したとされるB社のケース

2022年11月、ある人気洋食店(以下「B社」)を経営する社長のもとに、札幌国税局の職員が税務調査にやってきたと報じられています。B社の経営者は税務調査の経験がなく、「言われるがまま、こういうものだと思って、すべてに正直に応じていた」と振り返っているとされます。

調査の結果、B社の一部店舗でレジ操作により現金売上を除外していたことが発覚。B社の経営者は指摘を受けて深く反省し、過去の現金売上除外のすべてとその使い道が記載された「簿外現金出納帳」を提出して全面的に協力したと報じられています。

調査開始から約5か月後、国税局から2種類の追徴課税額が提示されたと当事者は主張しています。

内容 追徴課税額
A案 B社+知人が経営する別店舗も対象 約1億7,000万円
B案 B社のみ対象 約8,000万円

A案に含まれていた「知人が経営する店舗」は、のれん分けした別経営の独立店だったと当事者は主張しています。取引はあったものの、B社とは別の経営者が運営する店舗だったとされます。

当事者の主張によれば、国税局からは「知人の店舗を、B社の直営店として処理してほしい」「応じなければ知人の家や財産が差し押さえられるかもしれない」「査察調査に切り替わったら知人も逮捕されるかもしれない」といった説明があったとされます。B社の経営者は「自分が全ての責任を負えば知人を守れる」と考え、事実とは異なる内容の質問応答記録書にサインしてしまったと報じられています。

その後、B社の経営者は別の税理士法人に見直しを依頼。すると、簿外売上の資金使途がすべて経営者の私的流用とされていたり、実際には事業に使われていた経費が認められていなかったりと、事実と異なる課税処理内容がいくつも見つかったとされます。

依頼を受けた税理士法人の計算では、正当な課税額は約4,000万円。B社の経営者はその金額で修正申告を提出したと報じられています。

当事者は、国税局が修正申告を十分精査しないまま更正処分を通知したと主張しています。担当税理士が「中身を精査しない状態で更正通知を持ってくるのは、税務署と国税局の見解ですか?」と確認したところ、職員は「はい、そうですね」と回答。質問しようとすると「あとは審判の場で話してください」と突き放されたとされます。

B社の経営者は、国に損害賠償を求める国家賠償請求訴訟を札幌地裁に提起したと報じられています。

訴訟提起から約2か月後、国税局は当初の更正処分を取り消し、新たな更正処分を通知。取り消しの理由については説明がなく、最終的にB社の経営者は新たな更正処分に基づき約1億円を納税することになったと報じられています。国税不服審判所への審査請求は棄却され、現在は東京地裁で処分取消請求訴訟が続いているとされます。

さらに2025年8月、B社の経営者は札幌国税局の職員を公務員職権濫用罪・強要未遂罪などで刑事告訴・告発したと報じられています。

時期 報道された出来事
2022年11月 税務調査開始
約5か月後 2案提示、調書にサイン
その後 別税理士介入、約4,000万円で修正申告
後日 修正申告は精査されず、国税局が更正処分を通知
その後 札幌地裁に国家賠償請求訴訟を提起
提起から約2か月後 当初処分が取消、新処分で約1億円を納税
2025年8月 札幌国税局職員を公務員職権濫用罪等で刑事告訴・告発
現在 東京地裁で処分取消請求訴訟が継続

これら2つの事案について、札幌国税局はHTBの取材に対し「個別の事案についてはコメントを差し控えさせていただく」と回答していると報じられています。

なぜこうしたトラブルが起きるのか|実務経験から見た手続リスク

2件の事案は、いずれも係争中であり、最終的な司法判断は出ていません。それを前提として、元国税調査官の視点から、税務調査の現場でなぜこのようなトラブルが起こり得るのかを、3つの手続リスクから解説します。

視点1:調査現場での「成績評価」が背景にあると指摘される現実

税務調査官は、調査件数や追徴税額を厳密なノルマとして課されているわけではありません。ただ、実態としては、調査件数や非違件数(指摘事項の発見数)が、調査官の評価上の参考情報として考慮される建付けになっています。

この点については、別記事「税務調査官にノルマはある?」でも詳しく解説していますので、合わせてご覧いただくと理解が深まります。

報道された事案では、東京国税局OBの税理士が「自分の件数を稼ぐために正義を曲げていいのか、不当なことをしていいのかというところは、全く別問題」とコメントしていると伝えられています。あくまで一部の事案で指摘されている話ではあるものの、こうした「成績」の意識が背景に絡む可能性はゼロではないというのが、内部にいた者としての実務感覚です。

さらに付け加えると、こうした「成績」の意識は個人レベルにとどまりません。税務署という組織単位でも、調査件数や追徴税額が他の税務署と比較される構造があります。この数字の責任者は、多くの場合、課税部門担当の副署長です。そして副署長配下の統括官(調査官の直接の上司)は、副署長への報告のために良い数字を出すよう動くのが自然な構造です。つまり個人だけでなく、組織の構造としても数字を追い求める力学が働くケースがある、ということです。

もちろん、すべての税務調査がそうした背景で動いているわけではありません。ただ、こうした構造が現場の判断に影響を与え得るという点は、税務調査を受ける側として知っておいて損はないと考えます。

視点2:質問応答記録書(調書)の重みを知る

質問応答記録書(調書)とは、税務調査の中で調査官が納税者に質問した内容と、その回答を記録した書類です。

この書類は、後から「言った・言わない」を防ぐためのもので、裁判の証拠にもなり得る重要な書類です。一度サインすると、その内容を「事実と相違ない」と認めたことになります。

事例2のケースでは、B社の経営者が事実と異なる内容の調書にサインしてしまったと報じられており、当事者側は、これが後の課税処理に大きく影響したと主張しています。

視点3:更正処分という最終手段の意味

更正処分とは、税務署が「あなたの申告は間違っている」と判断し、税務署側の計算で税額を決定する処分です。

通常、納税者から修正申告が提出されれば、その内容を再調査したうえで最終処理に進むのが一般的な手続きとされています。ただし、国税側と納税者側の見解が完全に異なる場合は、修正申告を踏まえずに更正処分が行われることもあり得ます。

事例2のケースでは、東京国税局OBの税理士が「修正申告が出たことを把握しているにもかかわらず、それを踏まえずに更正するというのは、僕としては聞いたことない」とコメントしていると報じられています。一般化はできないものの、実務上は珍しい対応だったとの見方があります。

一般の事業者がこの状況を判断できるか

ここまでの事案をご覧になって、「調書にサインしなければよかったのに」「修正申告で粘ればよかったのに」と思われたかもしれません。しかし実際の調査現場で、一般の事業者がそうした冷静な判断を下せるかというと、現実にはかなり難しいと言わざるを得ません。

「合法か違法か」は素人には見抜けない

税務調査は法令に則った手続きですが、調査官の指摘内容が法的に正しいかどうかを判断するには、税法・会計・調査実務の知識が必要です。一般の事業者が、その場で「これはおかしい」と気づくのは極めて困難です。

「差し押さえられる」と言われて冷静でいられるか

事例2のケースで報じられている「差し押さえ」「査察」「逮捕」といった言葉は、一般の事業者にとっては非常に重く響きます。「自分が責任を負えば知人を守れる」という心理に追い込まれた経営者の判断は、責められるものではありません。

調査官が不当な指摘や無理な要求をしてきた場合、それを判断できず、毅然とした対応をするのは事業者だけでは困難です。だからこそ、税理士という第三者の存在が必要になります。

借入金と売上の違いも、論証は容易ではない

事例1のケースでは、借入金が売上として認定されかけたと報じられています。「契約書があれば借入金の証拠になるのでは」と思われるかもしれませんが、契約書だけで完全に証明できるとは限りません。取引の実態(資金の流れ、返済実績など)まで含めて総合的に判断されるのが実務です。

こうした論点を、調査官と対等に議論できる事業者は、実際にはほとんどいません。

税務調査トラブルから身を守る4つの備え

では、こうしたトラブルから身を守るために、事業者は何を備えておくべきでしょうか。元国税調査官として、4つの備えをお伝えします。

備え1:調書にサインする前に必ず立ち止まる

質問応答記録書は、サインを求められても即座に応じる必要はありません。「税理士に相談してからにします」と伝えれば、それで構わないのです。

記載内容が事実と異なる場合、サインを拒否することは正当な権利です。なぜなら、調書は「記載内容が事実と相違ない」というサインを意味するからです。事実と異なるならサインできないのは当然のことです。

備え2:税務調査に強い税理士を事前に確保する

税務調査の通知が届いてから税理士を探し始めるのは、現実的にはかなり厳しい選択です。税務調査に強い税理士は予約も埋まりやすく、また初対面の税理士にゼロから事情を説明する時間的余裕もありません。

顧問契約またはメンバーシップ型の備えがあれば、いざというときに即座に動ける税理士がいる安心感が得られます。

備え3:通知が来てからでは遅い、日頃の備えが鍵

税務調査が来てから慌てるのではなく、平時から契約書・帳簿・領収書の整理を習慣化しておくことが重要です。事例1のように借入金と売上の区別が問題になるケースでは、契約書の有無だけでなく、日頃の記帳の仕方が大きく影響します。

備え4:契約書・帳簿の整理を怠らない

取引先との金銭のやり取りは、必ず契約書または覚書を作成しておきます。借入金であれば金銭消費貸借契約書を、業務委託であれば業務委託契約書を、というように、お金の性質を文書で残しておくことが、いざというときの強い味方になります。

「通知が来てから」では遅い|月額約1,000円〜で備える発想

税務調査の対応を税理士に依頼すると、スポット依頼の場合で60万円以上、ケースによっては100万円を超えることもあります。「税務調査の通知が届いてから払う」となると、決して安い金額ではありません。

シロクマくん税務調査あんしんメンバーシップは、月額約1,000円〜という、スポット依頼の10分の1以下のコストで、税務調査に備えられる仕組みです。元国税調査官の税理士が対応しますので、調査現場でどんな指摘がされやすいか、何に備えておくべきかという「実務の勘所」を踏まえたサポートが可能です。

「税務調査が来てから慌てる」のではなく、「来る前から備えておく」ことで、いざというときの心理的・経済的負担を大きく減らせます。

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まとめ|税務調査の通知が来る前に、備えておくべき理由

本記事では、報道された2つの税務調査トラブル事例を元に、一般の事業者が税務調査に向き合う際の心構えと備えについて解説しました。

2件の事案はいずれも係争中であり、最終的な司法判断は出ていません。どちらの主張が正しいかは、今後の手続きで明らかになっていきます。

ただ、少なくとも言えるのは、税務調査の現場では、一般の事業者が単独で適切な判断を下すのが極めて困難な状況が起こり得るということです。

「税理士に頼むとお金がかかる」と感じるかもしれませんが、税務調査の通知が届いてから慌てる場合、スポット依頼で60万円以上の費用がかかることも珍しくありません。月額約1,000円〜のメンバーシップ型なら、平時から税理士との接点を持ち、いざというときに備えることができます。

税務調査の通知が来る前に、税理士に相談できる体制を整えておく――これだけは、絶対に覚えておいてください。

参考情報

  • HTB北海道ニュース「追跡!国税局が文書偽造に不当課税?税務調査を受けた社長らが国税局職員を刑事告訴に発展」(2025年9月24日)
  • 一般社団法人不当課税対策プロジェクト ウェブサイト
免責事項:本記事は、上記公開情報をもとに税務調査時の注意点を一般的に解説するものです。紹介する事案には係争中のものが含まれ、事実認定は今後の手続・裁判等で変更される可能性があります。本記事は特定の機関・個人の違法性を断定する趣旨ではなく、個別事案は必ず専門家にご相談ください。

税務のシロクマくん

この記事の監修者

税務のシロクマくん(税理士)

税務署一般部門、特官部門、国税局調査部で国税調査官を長年務め、その実績と経験を活かし、現在は税理士として税金や税務調査の情報を発信中。

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