不動産賃貸は「確実に把握される」所得
税務署がすでに知っている情報
「家賃収入くらいで税務調査なんて来るのか」。不動産賃貸を営む個人の方からよく聞く言葉です。しかし、不動産所得には他の事業にはない特徴があります。それは、登記情報、固定資産税の課税情報、不動産取得時の申告書、管理会社からの支払調書など、税務署が収入を把握するための情報源が豊富に存在することです。
国税庁が公表している本稿執筆時点の最新公表である令和6事務年度の申告漏れランキング上位10業種に、「不動産賃貸業」は入っていません。しかし、これは「調査が来ない」という意味ではありません。不動産所得は金額が大きくなりやすく、経費の判断ミスも起きやすい所得です。特に、不動産所得の赤字で給与所得と損益通算して還付を受けている方は、税務署の目に留まりやすいことを知っておいてください。
個人事業主に税務調査が来る確率は全体では約1%前後ですが、物件数や所得金額、損益通算の有無によってリスクは大きく変わります。
不動産賃貸で税務調査が入りやすい人の特徴
損益通算で給与所得と相殺している人
サラリーマン大家に多いケースです。不動産所得を赤字にして給与所得と損益通算し、源泉徴収された所得税の還付を受ける。この仕組み自体は合法ですが、赤字の原因が適正かどうかは税務署がチェックするポイントです。
特に注意が必要なのが、土地の取得に係る借入金の利子です。不動産所得の赤字のうち、土地を取得するために要した借入金の利子に相当する部分は損益通算の対象になりません。この制限を知らずに全額を通算していると、税務調査で指摘されます。
(参考:国税庁「No.1391 不動産所得が赤字のときの他の所得との通算」)
物件を取得・売却した年
不動産を購入した年は、取得資金の出どころ(自己資金か借入かなど)を税務署が確認することがあります。また、売却した年は譲渡所得の申告が正しいかが精査されます。取得・売却のタイミングは税務調査のきっかけになりやすい時期です。
物件数が多い・所得金額が大きい人
収益物件を複数所有している方、不動産所得の金額が大きい方は、誤りがあった場合の影響額も大きくなるため、調査対象になりやすい傾向があります。
不動産所得の税務調査で指摘されやすいポイント
修繕費と資本的支出の区分——最大の争点
不動産所得の税務調査で最も頻繁に問題になるのが「修繕費」と「資本的支出」の区分です。
修繕費は、建物の原状回復や維持管理のための支出で、その年の経費に一括計上できます。一方、資本的支出は、建物の価値を高めたり耐用年数を延ばしたりする支出で、減価償却により数年かけて費用化します。
外壁の塗り替えでも、同じグレードの塗料で塗り直すなら修繕費ですが、より高品質な塗料にグレードアップした場合は資本的支出の要素が含まれます。入居者退去後のリフォームも、原状回復の範囲なら修繕費ですが、間取りの変更やキッチン・浴室のグレードアップを伴えば資本的支出です。
区分が不明な場合は、国税庁の形式基準が参考になります。
・20万円未満の支出 → 修繕費
・おおむね3年以内の周期で行われる修理 → 修繕費
・60万円未満の支出、または前年末の取得価額の10%以下 → 修繕費
工事の請求書や見積書には、工事内容の明細を残しておくことが重要です。「リフォーム一式」ではなく、原状回復部分とグレードアップ部分を分けて記載してもらうと、税務調査での説明がしやすくなります。
(参考:国税庁「No.1379 修繕費とならないものの判定」)
減価償却費の計算ミス
建物の減価償却費は不動産所得の経費の中で最も大きな割合を占めることが多く、計算ミスは追徴税額に直結します。
建物の法定耐用年数は構造によって異なります。木造は22年、鉄筋コンクリート(RC)は47年です。中古物件を取得した場合は「簡便法」で耐用年数を計算できます。
・法定耐用年数を全部経過している場合:法定耐用年数 × 20%
・一部経過している場合:(法定耐用年数 − 経過年数)+(経過年数 × 20%)
たとえば、築25年の木造アパートを購入した場合、法定耐用年数22年を全部経過しているため、22年 × 20% = 4.4年 → 4年が耐用年数になります(1年未満の端数は切り捨て、2年未満の場合は2年)。
ただし、取得時に取得価額の50%を超えるリフォーム(資本的支出)を行った場合は、簡便法ではなく法定耐用年数を使わなければなりません。この見落としは税務調査で指摘されやすいポイントです。
(参考:国税庁「No.5404 中古資産の耐用年数」)
敷金・保証金の収入計上漏れ
敷金・保証金は預り金のため、受け取った時点では原則として収入になりません。しかし、返還しないことが確定した部分は、確定した時点で収入に計上する必要があります。
たとえば、契約で「退去時に敷金の20%は償却する」と定めている場合、その20%分は契約時点で収入として計上します。退去時の原状回復費用として敷金から差し引いた金額の取扱いにも注意が必要です。
家賃の収入計上時期
家賃収入は、実際に入金された日ではなく、発生ベース(権利確定主義)で計上するのが原則です。具体的には、契約で定められた支払期日が属する年の収入として計上します。
たとえば、「毎月末日までに翌月分の家賃を支払う」という契約の場合、12月末が支払期日となる1月分の家賃は、支払期日が属する12月(当年)の収入になります。「まだ入金されていないから翌年の収入」とするのは誤りで、この「期ずれ」は税務調査で指摘されやすいポイントです。
5棟10室基準と青色申告特別控除
不動産の貸付けが「事業的規模」に該当するかどうかは、所得税の計算に大きく影響します。国税庁は、アパート等の貸付けで独立した室数がおおむね10室以上、独立家屋の貸付けでおおむね5棟以上を事業的規模の目安としています(5棟10室基準)。
事業的規模に該当すると、青色申告特別控除65万円(電子申告の場合)が適用できます。一方、事業的規模に満たない場合は10万円控除にとどまります。5棟10室基準を満たさないのに65万円控除を適用していると、税務調査で否認されます。
(参考:国税庁「No.1373 事業としての不動産貸付けとそれ以外の区分」)
不動産賃貸の消費税——住宅と事業用の区分
住宅は非課税、事業用は課税
住宅の貸付けは消費税が非課税です。ただし、貸付期間が1か月未満の場合や旅館業に該当する施設(民泊含む)は課税対象になります。事業用のテナント賃料、事務所賃料は課税です。
住宅用建物の賃貸料は、原則として消費税が非課税とされています。したがって、住宅賃貸のみの場合は家賃収入の額にかかわらず、その部分について消費税の納税義務は生じません(課税売上に該当する駐車場代や店舗部分の賃料などがある場合は別途判定が必要)。非課税売上は課税売上高の判定に含まれないためです。ただし、事業用テナントや駐車場(課税分)の収入がある場合は、その合計が1,000万円を超えると課税事業者になります。
駐車場収入の課税・非課税の判定
駐車場の貸付けは原則として消費税の課税対象です。アスファルト舗装や区画線の設置、フェンスの設置など「施設の利用」とみなされる場合は課税になります。
ただし例外として、アパート等の住宅に付随する駐車場で、1戸当たり1台分以上のスペースが割り当てられており、家賃とは別に駐車場使用料を徴収していない場合に限り、住宅の貸付けの一部として非課税になります。
(参考:国税庁「No.6226 住宅の貸付け」)
元国税調査官が教える不動産賃貸の税務調査対策
修繕工事は明細を分けて記録する
修繕工事の請求書は「一式」ではなく、原状回復部分とグレードアップ部分を分けて記載してもらってください。工事の写真(施工前・施工後)も保管しておくと、修繕費として計上した根拠を説明しやすくなります。
減価償却の計算根拠を残す
中古物件を取得した場合は、簡便法の計算過程を記録し、取得時の資本的支出が取得価額の50%を超えていないかを確認してください。計算ミスは数年分の追徴に直結します。
損益通算の計算を正確に
不動産所得の赤字で損益通算を行う場合は、土地取得に係る借入金利子が通算対象外であることを把握しておきましょう。
収入の計上時期を確認する
家賃は発生ベースで計上します。入金日ではなく、契約上の支払期日が基準です。敷金の返還不要部分の計上タイミングも、契約条項を確認のうえ正しく処理してください。
税務調査の連絡が来たら
税務調査は通常、税務署から事前に電話で連絡が入ります。日程は相談のうえ決まるため、「税理士に相談してから折り返します」と伝えれば問題ありません。調査当日は帳簿、請求書、契約書、通帳を準備しておきましょう。税務調査の具体的な流れを事前に把握しておくと、落ち着いて対応できます。
まとめ:不動産オーナーこそ「正確な経理」が最大の資産防衛
不動産賃貸は、修繕費と資本的支出の区分、減価償却の計算、損益通算の制限、消費税の課税・非課税の判定と、税務上の論点が多い所得です。物件を持っている限り毎年発生する所得だからこそ、計算の誤りは長期間にわたって積み重なります。
税務調査は、来てから慌てるものではなく、日頃から備えておくものです。
もし税理士にスポットで税務調査対応を依頼すると、費用は60万円以上。ケースによっては100万円を超えることもあります。
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なお、「税務調査を拒否したらどうなるのか」という疑問をお持ちの方は、こちらの記事もあわせてご覧ください。
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