この記事のポイント
・個人事業主に税務調査が来る確率は、年間で約1%です。
・ただし、調査を受けた個人事業主の約84%で申告漏れが見つかっています。
・税務署はランダムに選んでいません。KSKシステムやAIを活用し、調査すべき理由がある申告を効率的に選び出しています。
「個人事業主に税務調査って、本当に来るの?」
確定申告を終えるたびに、こんな不安を感じたことはないでしょうか。
結論から言えば、個人事業主にも税務調査は来ます。ただし、全員に来るわけではありません。
この記事では、元国税調査官の立場から、個人事業主に税務調査が来る確率と、調査対象がどのように選ばれているのかを、国税庁の公表データをもとに解説します。
個人事業主に税務調査が来る確率はどれくらい?
国税庁の公表データから見る実調率
国税庁が公表している令和5事務年度(令和5年7月〜令和6年6月)のデータを見てみましょう。
所得税の実地調査件数は47,528件です。このうち、特別調査・一般調査が37,092件、着眼調査が10,436件でした。
一方、事業所得者は約166万人です。
所得税の実地調査には不動産に係る譲渡の調査も含まれるため、実質的に事業を営む事業所得者に対する実調率はおおよそ1%前後の範囲です。100人に1人程度の割合と考えてください。
(※)着眼調査とは、調査項目を事前に絞って短期間で行われる税務調査です。広く全般的に見る一般調査とは異なり、特定の論点に着目して実施されます。
R3
R4
R5
出典:国税庁「令和5事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」
※R2・R3はコロナ影響で件数が低水準。R4以降は回復・増加傾向。
※実地調査には特別調査・一般調査・着眼調査を含む。
コロナ禍で一時的に減少した調査件数は、令和4年度以降回復し、高い水準を維持しています。
法人と個人で確率はどう違うのか
法人の場合、実調率は個人より高い傾向にあります。法人の税務調査では追徴税額も1件あたり平均634万円と、個人の約3倍の水準です。詳しくは法人の税務調査の確率と追徴額の実態で解説しています。
個人事業主は数が多く、税務署の人員にも限りがあります。すべての個人事業主を調査することは物理的に不可能です。
だからこそ、税務署は「調査すべき人」を効率的に選び出す仕組みを持っています。
「100人に1人」は本当に少ないのか
年間の実調率だけを見ると、確かに低い数字に見えます。
しかし、事業を10年続ければ、約10%の確率で一度は税務調査を受ける計算になります。20年続ければ約20%です。
「いつかは来るかもしれない」と考えておくのが現実的でしょう。
税務署はどうやって調査対象を選んでいるのか
調査対象の選定ロジック(KSKシステムの役割)
税務署は、KSK(国税総合管理システム)というシステムを使って、申告データを一元管理しています。
KSKのデータは、調査対象の選定においていわば一次のふるいです。過去の申告内容や業種ごとの平均値と比較し、異常値がある申告を自動的に抽出します。
さらに、各種情報源から収集した情報を横断的に集約し、選定に活用する仕組みへと進化しています。調査対象の選定精度は年々向上しています。
「ランダム」ではなく「シグナル」で選ばれる
税務調査の対象は、くじ引きのようにランダムに決まるわけではありません。
システムで抽出された申告書をもとに、税務署内部の会議や、国税庁・国税局の方針(今年はこの業種を重点的に見よう、といった方針があります)、統括官の判断などから選ばれます。
つまり、調査選定の俎上に上がってくるのは、何らかの「シグナル」が出ているということなのです。
確率が高くなる5つの条件
具体的にどんな申告が「シグナル」と見なされるのか。代表的な条件を5つ挙げます。
1つ目は、売上が急に増えた、または急に減ったケースです。前年と比べて大きな変動があると、その理由を確認したいと考えるのは自然なことです。
2つ目は、経費率が同業他社より極端に高いケースです。同じ業種なのに経費の割合だけが突出していれば、過大計上の可能性を疑います。
3つ目は、売上が1,000万円を少し下回っているケースです。消費税の課税事業者となる基準が1,000万円であるため、納税義務を回避するために売上を過少申告しているのではないかと疑われます。この論点は、調査理由としてメジャーなものの一つです。
4つ目は、無申告や期限後申告を続けているケースです。国税庁は無申告者への調査を重点課題に位置付けています。令和5事務年度の無申告者に対する1件あたりの追徴税額は417万円と、全体平均の1.5倍に上ります。
5つ目は、開業から数年が経過し、一度も調査を受けていないケースです。開業直後は実績データが少ないため調査対象になりにくいですが、数年分の申告データが蓄積されると、比較・分析の精度が上がり、選定の対象に入りやすくなります。
これ以外にも、調査対象になりやすい特徴はいくつかあります。詳しくは税務調査が入りやすい会社の特徴7選で解説しています。
調査を受けた個人事業主の84%で申告漏れが見つかっている
非違割合84%と1件あたり追徴224万円の意味
令和5事務年度の所得税の実地調査では、調査を受けた47,528件のうち、40,131件で何らかの申告漏れ等が見つかりました。非違割合は84.4%です。
つまり、税務調査が来たら、約84%の確率で何かしら指摘されるということです。
1件あたりの追徴税額は224万円(本税188万円+加算税36万円)。申告漏れ所得金額は1件あたり1,160万円に上ります。
さらに、AIを活用した選定の精度向上もあり、令和5事務年度の追徴税額の総額は1,398億円と過去最高を記録しています。
法人との比較 ── 個人も決して軽くない
| 項目 | 個人事業主(R5) | 法人(R6) |
|---|---|---|
| 実調率 | 約1% | 約1.7% |
| 非違割合 | 84.4% | 77.8% |
| 1件あたり追徴税額 | 224万円 | 634万円 |
| 1件あたり申告漏れ所得 | 1,160万円 | 1,508万円 |
出典:国税庁 令和5事務年度 所得税調査等の状況 / 令和6事務年度 法人税等の調査事績の概要
追徴税額の絶対値は法人より低いものの、非違割合は個人の方が高い点に注目してください。個人事業主は法人に比べて経理体制が手薄になりがちなため、意図せず申告に誤りが生じやすいという背景があります。
申告漏れ所得が高額な業種ランキング
国税庁は、事業所得を有する個人の1件あたりの申告漏れ所得金額が高額な業種も公表しています。
| 順位 | 業種目 | 1件あたり申告漏れ所得 | 1件あたり追徴税額 |
|---|---|---|---|
| 1 | 経営コンサルタント | 3,871万円 | 1,040万円 |
| 2 | ホステス、ホスト | 3,654万円 | 507万円 |
| 3 | コンテンツ配信 | 2,381万円 | 436万円 |
| 4 | くず金卸売業 | 2,068万円 | 683万円 |
| 5 | ブリーダー | 2,028万円 | 459万円 |
| 6 | 焼き鳥 | 1,657万円 | 427万円 |
| 7 | 太陽光発電 | 1,625万円 | 119万円 |
| 8 | 内科医 | 1,621万円 | 408万円 |
| 9 | スナック | 1,616万円 | 326万円 |
| 10 | 西洋料理 | 1,517万円 | 288万円 |
出典:国税庁「令和5事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」参考計表
経営コンサルタントが1位で、追徴税額は1件あたり1,040万円に上ります。コンテンツ配信(YouTuber等)やブリーダーなど、近年の新しい業種もランクインしています。
税務調査はいつ来るかわかりません。月額980円で、元国税調査官の税理士が備えになります。
「確率が低いから大丈夫」が危ない理由
来るかどうかは誰にも予測できない
実調率が約1%であることは事実です。しかし、自分がその1%に入るかどうかは、誰にもわかりません。
長年真面目に申告してきた方が、ある日突然税務調査を受けるケースは珍しくありません。
開業から15年で初めて電話がかかってきた方もいます。開業から20年目に来た方もいます。
「来る確率が低いから、対策しなくていい」という考え方は、保険に入らず車を運転するようなものです。
来てから慌てた人が払う代償
税務調査の通知が届いてから税理士を探す場合、費用は高くなります。緊急対応になるためです。
顧問税理士がいない個人事業主がスポットで依頼すると、60万円以上かかることも珍しくありません。さらに修正申告が必要になれば、追徴課税も上乗せされます。
詳しい費用の相場は税務調査の費用はいくらかかる?税理士報酬の相場を解説の記事で紹介しています。
まとめ
個人事業主に税務調査が来る確率は、年間で約1%です。
数字だけを見れば低いように感じるかもしれません。しかし、事業を長く続ければ、一度は調査を受ける可能性は十分にあります。そして、調査を受けた個人事業主の84%で申告漏れが見つかり、1件あたり平均224万円の追徴税額が発生しています。
税務署はランダムに調査先を選んでいるわけではありません。KSKシステムやAIを活用し、調査すべき理由がある申告を効率的に選び出しています。
大切なのは、確率を気にすることではなく、「いつ来ても大丈夫」な状態をつくっておくことです。
税務調査は来てから慌てるものではなく、日頃から備えておくものです。スポットで税理士に依頼すると60万円以上かかることもありますが、シロクマくん税務調査あんしんメンバーシップなら、月額980円から元国税調査官の税理士による備えを持つことができます。
税務調査の全体的な流れを知りたい方は税務調査の流れを元国税調査官が解説もあわせてお読みください。
実際に通知が届いたときの対応は税務調査の事前通知が来たら?届いてから当日までにやるべきことで詳しく解説しています。