この記事の結論
整骨院・接骨院の税務調査では、保険請求収入の「期ズレ」、自費診療の現金管理、消費税の課税・非課税の区分が集中的にチェックされます。この3つを正しく処理していれば、調査が入っても大きな問題にはなりません。
今日からできる3つのこと
- 日計表と受付簿を毎日つけ、患者数と売上件数を一致させる
- 保険請求収入は「入金月」ではなく「施術月」で売上計上する
- 自費診療と保険診療の売上を会計ソフトで明確に分けて管理する
整骨院・接骨院に税務調査が入る理由
保険診療と自費診療の「混在」が調査官の関心を引く
整骨院・接骨院の収入構造は、一般的な個人事業主とは大きく異なります。健康保険による療養費(保険診療)、自賠責保険による交通事故の施術収入、労災保険の施術収入、そして患者が全額負担する自費診療。これだけ多くの収入区分が1つの院に混在している業種は珍しく、それぞれ会計処理のルールが異なります。
国税庁は、同業者の平均的な売上高や経費率のデータを保有しています。あなたの院の数字が同業者の平均から大きく外れている場合、調査対象として選定される可能性が高まります。特に、自費診療の比率が同業者と比べて極端に低い場合や、経費率が異常に高い場合は注意が必要です。
現金取引の多さがリスクを高める
窓口での一部負担金や自費診療の支払いは、いまだに現金が中心です。キャッシュレス決済が普及してきたとはいえ、高齢の患者が多い整骨院では現金比率が高い傾向にあります。
国税庁が公表している申告漏れ所得金額のランキングでは、現金取引の多い業種や保険診療と自費診療が混在する業種が上位に並んでいます。
| 順位 | 業種 | 1件当たり申告漏れ所得 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 1 | キャバクラ | 4,164万円 | 現金商売 |
| 2 | 眼科医 | 3,894万円 | 自費診療混在 |
| 3 | ホステス、ホスト | 2,968万円 | 現金商売 |
| 6 | バー | 1,968万円 | 現金商売 |
| 9 | スナック | 1,873万円 | 現金商売 |
出典:国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況」
整骨院・接骨院はこのランキングには入っていません。しかし注目すべきは2位の「眼科医」です。眼科医がランクインしている理由は、自費診療(レーシック、コンタクトレンズ処方など)と保険診療が混在し、収入区分の処理が複雑になりやすいことにあります。整骨院も同じ構造を持っています。ランキングに載っていないから安全、ということではありません。
療養費の不正請求問題が背景にある
柔道整復師による療養費の不正請求は、複数のメディアで継続的に報じられています。会計検査院が2019年に公表した「柔道整復師の施術に係る療養費に関する会計検査の結果」では、2017〜2018年度の2年間で約3万8,500件の不正・不当な請求が確認されたとされています(出典: 会計検査院令和元年検査結果)。慢性的な肩こりや腰痛に対する施術を「捻挫」「打撲」と偽って保険請求するケースが代表的です。
この問題は厚生労働省の管轄ですが、税務調査にも無関係ではありません。療養費を水増し請求している場合、帳簿上の保険収入と実際の施術内容に矛盾が生じます。調査官はこうした矛盾を見逃しません。不正請求問題が業界全体に対する税務署の注目度を高めている面があります。
事前に院の様子を確認されることもある
飲食店の税務調査では、調査官が事前に客として店を訪れ、客数や会計の様子を確認する「内観調査」が行われることがあります。整骨院・接骨院でも、調査官やその関係者が患者として来院し、受付の対応や院内の状況を確認することがあります。
待合室の混み具合、受付での会計処理、カード決済端末の有無、スタッフの人数と動き。こうした情報は、後日の帳簿調査と突き合わせる材料になります。「うちは小さい院だから大丈夫」と思っていても、調査官は見ています。
整骨院の税務調査で重点的にチェックされるポイント
保険請求収入の計上時期——「期ズレ」は最大の落とし穴
整骨院の税務調査で最も指摘されやすいのが、保険請求収入の計上時期です。
健康保険の療養費は、施術した月から数えて2〜3か月後に入金されるのが一般的です。ここで多くの院長が犯す間違いが、「入金された月」に売上を計上してしまうことです。
所得税法では、収入は「権利が確定した時点」で計上するのが原則です(発生主義)。整骨院の保険請求収入は、原則として施術を行った月が計上のタイミングです(発生主義)。入金月ではありません。ただし、査定により請求が減額されるケースについては、減額確定のタイミングで売上調整が必要です。
たとえば、12月に施術した分の療養費が翌年2月に入金された場合、12月の売上として計上しなければなりません。これを2月の売上にしてしまうと、12月分の売上が丸ごと抜け落ちる「期ズレ」が発生します。
調査官は、各保険者(協会けんぽ、国保連合会など)からの振込明細と、あなたの帳簿の計上月を突き合わせます。期ズレがあれば、その分が「売上計上漏れ」として追徴課税の対象になります。悪質と判断されなくても、過少申告加算税(原則10%)と延滞税が発生します。
なお、開業初年度から継続的に入金ベースで処理していた場合でも、税務調査では原則どおり発生ベースへの修正を求められることがあります。「今の処理で合っているのか分からない」という方は、早めに専門家に相談しておくことが大切です。
自費診療と物販の現金管理
骨盤矯正、美容鍼、インソール販売、サプリメント販売など、保険が適用されない収入は自費診療として区分されます。これらは窓口で現金やカードで直接受け取ることが多く、管理が甘くなりがちです。
調査官は、受付簿(予約簿)に記載された来院患者数と、日計表の売上件数を照合します。受付簿には10人来院しているのに、日計表には8人分しか記録されていなければ、差額の2人分が売上除外として指摘されます。
調査官がチェックする書類の組み合わせ:受付簿(予約簿)、日計表、施術録(カルテ)、レジジャーナル、銀行通帳。これらの間に矛盾がないことが重要です。
また、回数券や施術プリペイドカードを販売している場合も要注意です。原則としては、役務の提供が完了した時点(施術の都度)で売上を認識します。販売時に全額を売上にしてしまうと、未消化分の処理でかえって複雑になります。回数券の販売台帳を作り、「いつ・誰が・何回目を消化したか」を記録しておくと、調査時にスムーズに説明できます。
消費税の課税・非課税の区分
整骨院の収入には、消費税がかかるものとかからないものが混在しています。ここを正しく区分できていないと、消費税の申告自体が誤ってしまいます。
| 収入の種類 | 消費税 | 根拠 |
|---|---|---|
| 健康保険の療養費(保険診療) | 非課税 | 消費税法6条・別表第一(社会保険医療) |
| 労災保険の施術収入 | 非課税 | 消費税法6条・別表第一 |
| 自賠責保険の施術収入 | 非課税 | 消費税法6条・別表第一 |
| 自費診療(骨盤矯正、美容鍼など) | 課税 | 保険適用外のため課税取引 |
| 物販(サプリメント、インソールなど) | 課税 | 物品の譲渡として課税取引 |
| 窓口の一部負担金 | 非課税 | 保険診療の自己負担分は非課税 |
特に注意が必要なのは、自費診療や物販の課税売上が年間1,000万円を超えるケースです。保険診療(非課税売上)だけなら消費税の納税義務は生じませんが、課税売上が基準期間(前々年)で1,000万円を超えると、消費税の課税事業者になります。また、インボイス発行事業者として登録している場合は、課税売上の金額にかかわらず消費税の申告が必要です。
課税売上と非課税売上を区分していなかった場合、税務調査で「消費税の無申告」を指摘されることがあります。無申告の場合、本税に加えて無申告加算税(原則15%、50万円超の部分は20%)と延滞税が課されるため、負担は非常に大きくなります。
自賠責保険収入の計上漏れ
交通事故の患者に対する施術は、自賠責保険から支払われます。この入金は施術完了後、保険会社との交渉を経て数か月〜半年以上遅れることも珍しくありません。
保険請求収入と同様に、自賠責の施術収入も施術を行った時点で売上に計上する必要があります。入金が翌年になったとしても、施術した年の売上です。
調査官は、銀行口座の入金履歴から自賠責保険の振込を確認できます。自賠責の入金を受ける口座を分けていても、税務署は金融機関に照会する権限を持っています。「別口座だからバレない」ということはありません。
専従者給与と人件費のチェック
家族が受付や事務を手伝っている場合、青色専従者給与を計上しているケースが多いでしょう。調査官は、その家族が実際に勤務しているかを確認します。
確認の方法は意外に直接的です。調査の当日、院内に家族がいるか、患者対応をしているかを目で見て確認します。勤務実態のない家族に専従者給与を支払っていると判断されれば、その全額が経費として否認されます。
また、柔道整復師の資格を持たないスタッフが施術を行っていないかも確認されます。無資格施術は法律上の問題であると同時に、そのスタッフの人件費と売上の対応関係に矛盾が生じるためです。
元国税調査官が教える整骨院の税務調査対策
日計表と受付簿を毎日つける
税務調査対策の基本は、日々の記録を正確につけることです。これは当たり前のことに聞こえるかもしれませんが、忙しい施術の合間に記帳が後回しになる院は少なくありません。
日計表には、保険診療の患者数と窓口収入、自費診療の患者数と収入額、物販の売上を区分して記録します。受付簿(予約簿)の来院人数と一致していることが重要です。後からまとめて記入すると、記憶違いによる漏れが発生しやすくなります。
キャッシュレス決済を導入している場合は、決済端末の取引履歴も有力な証拠書類になります。現金とカードの売上を分けて管理することで、現金売上の透明性が高まります。
保険請求収入は「施術月」で計上する
期ズレを防ぐための具体的な方法は、毎月のレセプト(療養費支給申請書)の控えをもとに、施術月の売上として計上することです。入金を待つ必要はありません。
具体的には、月末に「保険請求の未収金」として売上を立て、実際に入金されたときに未収金を消す処理を行います。会計ソフトを使っていれば、「売掛金」として管理するのが一般的です。
毎月のレセプト提出時に売上計上する習慣をつければ、期ズレは防げます。年末だけ慌てて調整するのではなく、月次で処理することが大切です。
課税売上と非課税売上を明確に分ける
会計ソフトの勘定科目を、収入の種類ごとに分けて設定しましょう。たとえば次のような区分です。
| 勘定科目 | 消費税区分 | 内容 |
|---|---|---|
| 保険診療収入 | 非課税売上 | 療養費・労災・自賠責 |
| 窓口負担金収入 | 非課税売上 | 保険診療の自己負担分 |
| 自費診療収入 | 課税売上 | 骨盤矯正、美容鍼など |
| 物販収入 | 課税売上 | サプリ、インソールなど |
この区分ができていれば、年間の課税売上高が1,000万円を超えるかどうかの判定も容易になります。消費税の納税義務が生じているのに気づかなかった、という事態を防げます。
調査の連絡が来たら慌てず準備する
税務調査は、通常は事前に電話で連絡が入ります。連絡を受けてから実際の調査日までは、おおむね1〜2週間の猶予があります。この間に以下の書類を整理しておきましょう。
確定申告書の控え(過去3年分)、帳簿(仕訳帳・総勘定元帳)、領収書・請求書の綴り、レセプトの控え、銀行通帳、受付簿・予約簿、日計表、施術録(カルテ)、源泉徴収簿・給与台帳。これらを年度別・月別に整理しておくだけで、調査当日のやり取りがスムーズになります。
税務調査の事前通知から当日までの具体的な流れや準備については、税務調査の事前通知が来たらやるべきことで詳しく解説しています。
税理士に依頼する場合の注意点
税務調査の立会いを税理士に依頼する場合、整骨院・接骨院の会計処理に詳しい税理士を選ぶことが重要です。保険診療収入の計上ルールや消費税の課税区分は、一般的な事業とは異なる部分が多く、この業種の経験がない税理士では対応が難しいことがあります。
税務調査の立会いをスポットで税理士に依頼する場合、費用の相場は60万円以上が一般的です。調査が長引いたり、修正申告の交渉が複雑になれば、100万円を超えることも珍しくありません。日頃から記帳を正確に行い、調査に備えておくことが、結果的に最もコストを抑える方法です。
よくある質問
Q. 整骨院に税務調査が来る確率はどれくらいですか?
個人事業主全体に対する税務調査の実施率は年間約1%前後です。整骨院だけの確率は公表されていませんが、現金取引が多く収入区分が複雑な業種は、平均よりも選定されやすい傾向にあります。個人事業主に税務調査が来る確率と選定基準で詳しく解説しています。
Q. 開業して何年目くらいで税務調査が来ますか?
明確な基準はありません。開業3年目で来ることもあれば、15年間一度も来ないこともあります。ただし、開業から数年は確定申告に不慣れで誤りが多くなりやすく、開業後3〜5年で最初の調査が入るケースが比較的多く見られます。
Q. 税務調査の連絡が来てから当日まで何日くらいありますか?
通常は1〜2週間です。日程は調整可能なので、準備が整わない場合は延期を申し出ることもできます。事前通知が来たらやるべきことで、連絡を受けてからの具体的な準備手順を解説しています。
Q. 保険診療しかやっていなくても税務調査は来ますか?
来ます。保険診療だけの院でも、期ズレによる売上計上漏れや、経費の水増し、専従者給与の実態確認など、調査で確認されるポイントはあります。保険診療のみだから安心とは言えません。
まとめ——整骨院経営者が今日からできること
整骨院・接骨院の税務調査は、保険収入の期ズレ、自費診療の現金管理、消費税の課税区分という3つのポイントに集中します。逆に言えば、この3つを正しく処理していれば、調査が入っても大きな問題にはなりません。
日計表と受付簿を毎日つけること。保険請求収入は施術月で計上すること。課税売上と非課税売上を明確に分けること。この3つの習慣を今日から始めてください。
税務調査は、来てから慌てるものではなく、日頃から備えておくものです。個人事業主に税務調査が来る確率はゼロではありません。スポットで税理士に依頼すれば60万円以上かかる税務調査対応ですが、シロクマくん税務調査あんしんメンバーシップなら月額約1,000円から(税込)、元国税調査官による事前相談と調査対応のサポートを受けられます。
個人事業主の税務調査全体の確率(年間1〜3%)や、税務署がどのような基準で調査対象を選んでいるかについては、個人事業主の税務調査 確率と選定基準|2026年版・業種別ランキングで詳しく解説しています。