外れ馬券は経費になる?5つの裁判から学ぶ一時所得と雑所得の境界線

馬券を28億円分買って、国税から5億7,000万円の納税を指摘された方がいます。

しかし裁判の結果、税額は5,200万円になりました。

差額は5億2,000万円。この金額を左右したのは、たった一つの問題です。「外れ馬券を経費にできるかどうか」。

外れ馬券が経費になるかならないかは、同じ儲けでも税額が約9倍変わる、人生を左右するレベルの問題です。

この記事では、この問題をめぐる5つの裁判を取り上げます。勝った人と負けた人の違いは何だったのか。元国税調査官が、判決文に基づいて詳しく解説します。

外れ馬券が経費になるかどうかで、税額は約9倍変わる

まず、なぜこれほど大きな差が出るのかを、具体的な数字で見てみましょう。

同じ1,000万円の儲けで、税金が2,267万円 vs 260万円

あなたが年間1億円分の馬券を買い、1億1,000万円の払戻金を得たとします。差し引き、利益は1,000万円です。

この1,000万円の儲けに対する税金が、所得の区分によってまったく変わります。

一時所得として計算した場合、経費にできるのは「当たった馬券の購入費」だけです。仮に一点1,000万円の馬券を一発当てたとすると、引けるのはその1,000万円のみ。残り9,000万円分の外れ馬券は、税金の計算上、なかったことにされます。

計算はこうなります。

払戻金1億1,000万円から、当たり馬券の購入費1,000万円を引いて、1億円。ここから一時所得の特別控除50万円を引いて、9,950万円。さらに、一時所得には「2分の1課税」というルールがあり、この金額の半分だけが課税対象になります。つまり約4,975万円。これに対して税金がかかり、税額はおよそ2,267万円です。

一方、雑所得として計算した場合は、外れ馬券も含めた馬券の購入費1億円が全部経費になります。課税対象は1,000万円だけ。税額はおよそ260万円です。

同じ1,000万円の儲けなのに、税金が約9倍も違います。

ポイントは3つあります。

1つ目。一時所得では、当たった馬券の購入費しか経費にできません。外れ馬券は一切認められません。

2つ目。一時所得には50万円の特別控除がありますが、金額が大きい場合はほとんど影響しません。

3つ目。一時所得には「2分の1課税」があります。課税対象が半分になるルールですが、それでも外れ馬券を全額経費にできる雑所得には到底かないません。

つまり、外れ馬券を経費にできるかどうかは、文字通り人生を左右する問題なのです。

一時所得と雑所得——何が違うのか

5つの裁判を理解するために、まず「一時所得」と「雑所得」の違いを整理しておきます。

一時所得とは——「たまたまの儲け」に対する税金

一時所得は、「たまたま」手に入った儲けに対する所得区分です。

懸賞で車が当たった。生命保険の満期金を受け取った。競馬で馬券が当たった。こういった、日常的に繰り返しているわけではない、偶然の利益が一時所得に分類されます。

一時所得の特徴は2つあります。

1つ目は、経費にできるのが「その収入を得るために直接支出した金額」に限られること。馬券で言えば、当たった馬券の購入費だけです。外れた馬券の購入費は「直接」収入に結びついていないため、経費になりません。

2つ目は、先ほど計算例で見た「2分の1課税」です。一時所得の金額は、特別控除50万円を引いた後、さらに2分の1だけが他の所得と合算されます。たまたまの儲けなのだから、税負担を軽くしてあげましょう、という趣旨の制度です。

雑所得とは——他のどこにも入らない所得の「受け皿」

雑所得は、給与所得でも事業所得でも不動産所得でもない、他のどの所得区分にも当てはまらない所得を全部引き受ける「受け皿」の区分です。

年金収入や、副業のちょっとした収入など、幅広い所得がここに入ります。(副業の税務調査について詳しくは「副業でも税務調査は来る?会社員が知るべきリスクと対策」をご覧ください)

雑所得では、収入を得るためにかかった費用を広く「必要経費」として差し引くことができます。一時所得のように「直接支出した金額」に限定されません。

また、一時所得にある「2分の1課税」は、雑所得にはありません。ただし、必要経費を広く差し引ける分、課税対象となる金額自体が小さくなるため、結果的に税額は大幅に低くなります。

なぜ馬券の儲けが雑所得になるのか

通常、競馬の払戻金は一時所得です。週末に競馬場に行って馬券を買い、たまたま当たった。これは典型的な「たまたまの儲け」です。

しかし、次のような場合はどうでしょう。

独自の予測システムを構築し、ほぼ全てのレースに機械的に馬券を購入し、毎年安定して利益を出し続けている。

これは「たまたま」とは言えません。仕組みを作って継続的に稼いでいるのであれば、それは一時所得の定義に当てはまりません。

一時所得に当てはまらない以上、他の所得区分を検討することになります。後述するように、事業所得は裁判所に退けられています。結果として、受け皿である雑所得に分類される。これが、馬券の儲けが雑所得になるロジックです。

そして雑所得になると、馬券の購入費は「仕組みを運用するためのコスト」として、当たりも外れも全て必要経費になります。

一時所得と雑所得の違い 比較表

項目 一時所得 雑所得
典型例 たまたま馬券が当たった 仕組みを作って継続的に購入
外れ馬券 経費にならない 経費になる
特別控除 50万円あり なし
2分の1課税 あり なし
確定申告の目安 利益50万円超 利益20万円超(給与所得者)
年間1億円購入
利益1,000万円の税額
約2,267万円 約260万円

勝敗を分けた3つの条件

では、どうすれば馬券の儲けが「たまたまではない」と認められるのか。

最高裁の判決と、税法学者の研究を総合すると、3つの条件に整理できます。

条件1 機械的・網羅的に買っているか

自分の好みや勘で特定のレースだけ買うのではなく、決められたルールに従って淡々と、できるだけ多くのレースを対象に買っているかどうか。

個人的な思い入れやその日の気分で購入パターンが変わるようでは、この条件をクリアできません。

条件2 毎年ちゃんと利益が出ているか

「通算で利益が出ている」では足りません。「全ての年で利益が出ている」ことが求められます。

これが5つの裁判を通じて最も厳しい条件でした。後述する高松事件では、5年間の通算では黒字だったにもかかわらず、1年だけ赤字があったことで逆転敗訴しています。

条件3 偶然性を排除できているか

仕組みによって勝っていることを、客観的に示せるかどうか。

回収率が恒常的に100%を超えていること、あるいは独自の分析手法によって偶然に左右されない成果を上げていることが求められます。

この3つを全てクリアして初めて、馬券の儲けは「たまたまではない」と認められ、雑所得に分類されます。1つでも欠ければ、一時所得のままです。

事業所得にはならないのか?——裁判で退けられた主張

ここで当然の疑問があります。仕組みで継続的に稼いでいるなら、それは「事業」ではないのか。事業所得にはならないのか、と。

この主張は、後述する東京事件と横浜事件で実際に争われています。しかし裁判所は、どちらの事件でも退けました。

判決文にはこう書かれています。「社会通念上、馬券の購入行為を事業に該当するということはできない」と。

つまり馬券の儲けが行き着く先は、事実上「一時所得か雑所得か」の二択です。

5つの裁判を徹底解説

ここからは、外れ馬券の経費性をめぐる5つの裁判を時系列で見ていきます。

勝訴した2件、敗訴した2件、そして逆転敗訴した1件。何が明暗を分けたのかを、先ほどの3条件に照らし合わせて解説します。

事件1 大阪事件(2015年最高裁判決・勝訴)——自動購入ソフトで28億円

外れ馬券が経費になると最高裁レベルで初めて認められた、歴史的な事件です。

大阪の元会社員の男性は、市販の競馬予想ソフトを自分で改良し、新馬戦と障害レースを除くほぼ全てのレースに自動で馬券を購入するシステムを作り上げていました。

3年間の数字は圧巻です。

購入額は28億7,000万円。払戻金は30億1,000万円。差し引き、利益は約1億4,000万円。

3つの条件に照らしてみましょう。

条件1、機械的に買っているか。ソフトが自動で、ほぼ全レースに購入。完全に機械的です。クリア。

条件2、毎年儲かっているか。3年間、全ての年で黒字。クリア。

条件3、偶然性を排除できているか。約40の要素を組み込んだ独自の計算式で、回収率が恒常的に100%を超えている。裁判所は、偶然ではなく仕組みで勝っていると認めました。クリア。

3条件全てクリア。裁判所は「雑所得」と判断しました。

その結果、外れ馬券を含む28億7,000万円が全て経費になり、利益の約1億4,000万円に対してだけ税金がかかることになりました。税額は約5,200万円。国側が最初に主張していた5億7,000万円との差額は、5億2,000万円です。

ただし、注意していただきたい点があります。この方は確定申告をしていませんでした。外れ馬券が経費になったからといって無罪になったわけではなく、申告義務を果たさなかったこと自体は、所得税法違反として有罪(懲役2ヶ月、執行猶予2年)の判決を受けています。(確定申告の間違いと税務調査の関係について詳しくは「確定申告の間違いは税務調査につながる?修正申告の方法とペナルティ」をご覧ください)

2015年3月10日の最高裁判決。外れ馬券が経費になるという判断が、日本で初めて最高裁レベルで確定した画期的な事件です。

事件2 札幌事件(2017年最高裁判決・勝訴)——ソフトなしで72億円

2件目の勝訴事件です。札幌の男性。

この方の特徴は、予想ソフトを使っていないことです。

6年間で72億7,000万円を投入し、78億4,000万円の払戻。利益は約5億7,000万円。大阪事件より規模が大きい買い方です。

この方は、馬の能力、騎手の技術、コース適性、枠順、馬場状態への適性、レース展開、補正、その日の馬のコンディションなど、複数の要素を独自に評価して、ほぼ全てのレースを対象に大量に馬券を買い続けていました。

3条件に照らします。

条件1、機械的に買っているか。ソフトは使っていないが、複数の要素に基づいて、ほぼ全レースを網羅的に購入している。裁判所は、これも機械的・網羅的と認めました。クリア。

条件2、毎年儲かっているか。6年間、全ての年で黒字。クリア。

条件3、偶然性を排除できているか。回収率は107.8%で、これが恒常的に続いていた。クリア。

3条件全てクリア。2017年12月15日、最高裁は「雑所得」と判断しました。

この判決の意義は大きいです。大阪事件のときは「自動購入ソフトがあったから雑所得が認められたのではないか」という見方もありました。しかし札幌事件によって、「手段は問わない。仕組みがあり、結果が出ていればいい」という基準が明確になりました。

ソフトを使うかどうかは本質ではなく、重要なのは「機械的に・毎年黒字で・偶然性を排除して」いるかどうか。この原則が、最高裁によって確認されたのです。

事件3 東京事件(2017年最高裁判決・敗訴)——馬主なのに負けた男性

ここから風向きが変わります。

3人目は東京の男性。この方は馬主でした。

競走馬を所有し、馬主ならではの内部情報を持ち、年間1,500回から2,000回の馬券購入。一般の競馬愛好家とは明らかに違う立場の方です。

この方の主張はこうでした。自分は馬主として、競走馬の状態や厩舎の情報に直接アクセスできる。一般の競馬ファンとは情報の質が根本的に違う。だから自分の馬券購入は趣味ではなく、情報に基づいた経済活動だ、と。

しかし裁判所は、この主張をほぼ全面的に退けました。

条件1、機械的に買っているか。年間1,500~2,000回の購入。回数は十分です。しかし裁判所は、「回数が多いことと機械的であることは別だ」と指摘しました。この方の購入には「自分の馬が出るレースを重点的に買う」という偏りがありました。馬主としての思い入れが、購入パターンに表れていたのです。条件不十分。

条件2、毎年儲かっているか。3年間で計約6,000万円の赤字。全ての年で赤字でした。完全に不合格。

裁判所は、この方が年収4,300万円から5,500万円の給与所得を得ていた事実を重く見ました。競馬の収入がなくても十分に暮らしていける。給与所得で生活を維持しながら、毎年赤字の馬券を買い続けている。裁判所から見れば、これは生計の手段ではなく余暇活動の延長です。

さらに、馬主であること自体が裏目に出ました。馬を所有し、その馬のレースを見に行き、そこで馬券も買う。裁判所の目にはこれが、「趣味としての競馬がより深い」ことを示しているに過ぎない、と映ったのです。

情報の質がいくら高くても、それで儲かっていなければ「質の高い趣味」でしかない。裁判所の答えはシンプルでした。

注目すべき事実があります。この東京事件の最高裁判決は、先ほどの札幌事件の判決のわずか5日後、2017年12月20日に出ています。しかも同じ裁判長です。

同じ裁判長が、5日の間に正反対の結論を出した。

それだけ、条件2「毎年儲かっているか」が決定的だということです。札幌の方はソフトなし、東京の方は馬主。情報量も経験も、東京の方がプロに近い。しかし6年連続黒字と3年連続赤字では、結論が180度変わりました。

事件4 横浜事件(2020年東京高裁判決・敗訴)——自作プログラムでも負けた男性

4人目は横浜の男性。この方にはプログラミングの知識がありました。

自作のプログラムで、過去のレースタイムを馬場状態に応じて補正し、数万回の模擬レースをシミュレーション。リアルタイムのオッズと比較して期待値を算出する。技術的には大阪事件のソフトと遜色ないレベルのシステムです。

6年間で約4億4,000万円を投入しています。

条件1、機械的に買っているか。プログラムはある。しかし最終的に「買う」「買わない」の判断は、要所で自分の感覚を入れていた。裁判所はこれを「機械的とは言えない」と判断しました。不合格。

条件2、毎年儲かっているか。6年のうち3年が赤字。不合格。

条件3、偶然性を排除できているか。人間の判断が入っている以上、偶然性が残っている。不合格。

3条件全て不合格。完全な敗訴です。

この事件から得られる教訓は明確です。「プログラムがある」だけでは条件1をクリアできません。プログラムの出力をそのまま使って、人間の判断を一切入れずに買う。そこまで徹底して初めて「機械的」と認められます。

大阪事件の男性は、ソフトに自動で買わせていました。横浜事件の男性は、ソフトの結果を見てから自分で判断していた。この「最後のひと手間」が、明暗を分けた決定的な違いです。

事件5 高松事件(2021年高松高裁判決・逆転敗訴)——あと一歩で全部ひっくり返った

最後の事件。5つの裁判の中で、おそらく最も教訓的な事件です。

高松の方は「馬王」という市販の競馬ソフトを使い、レース参加率は67%から77%。5年間で約3億円を投入しています。

条件1、機械的に買っているか。ソフトによる自動購入で、レース参加率も高い。クリア。

条件2、毎年儲かっているか。5年間の通算では黒字です。しかし5年のうち1年だけ、790万円の赤字がありました。

この方はまず地方裁判所に訴え、勝ちました。

地裁の判断はこうでした。通算で黒字なら、それは仕組みが機能している証拠だ。1年くらい赤字の年があっても、投資や事業と同じで波は当然ある。5年間トータルで利益が出ているなら、偶然ではなく仕組みの結果だ、と。

大阪事件、札幌事件に続いて、3例目の勝訴判決。しかも「通算で黒字ならOK」という判断は、それまでの判決より一歩踏み込んだ基準でした。

ところが、国側が控訴。高等裁判所で、全部ひっくり返りました。

高裁の判断はこうです。判決文から引用します。

「ある程度長期間にわたり多額の損失が発生していること自体が、偶然性の影響が減殺されていないことを推認させるものである」

790万円の赤字。5年のうちのたった1年。通算では黒字が出ているのに、その1年が命取りになりました。

弁護側はここで切り札を出しました。統計学の「t検定」です。

t検定とは、ある結果が偶然で起きたのか、それとも統計的に意味のある差なのかを数学的に判定する手法です。弁護側は、この方の5年間の回収率をt検定にかけて、「これだけ安定して100%を超える回収率が偶然で出る確率は極めて低い。統計的に有意だ」と主張しました。

裁判にt検定が登場するというのは、かなり異例のことです。数学で偶然性の排除を証明しようとした、画期的な試みでした。

しかし高裁はこの主張を採用しませんでした。「年単位の黒字」という事実面の判断が、統計的な議論より優先された形です。

そして最高裁。上告を受理すらしませんでした。門前払いです。

地裁で勝って、高裁でひっくり返されて、最高裁は門すら開けてくれなかった。

この判決で事実上はっきりしたのは、「通算で黒字」では足りない、「全年度で黒字」が条件だということです。

5年やって4年は儲かっている。通算でもしっかり利益が出ている。ソフトも使って、自動で、高い参加率で買っている。統計的な証明まで出した。それでも1年の赤字で全部ひっくり返りました。

条件2がいかに厳しいか。この事件が、何より雄弁に物語っています。

5つの裁判 比較一覧表

5つの事件を一覧にまとめます。

事件 判決年 結果 購入額 手法 条件1
機械的
条件2
毎年黒字
条件3
偶然排除
大阪 2015年(最高裁) 勝訴 28億7,000万円 自動購入ソフト ○(3年連続)
札幌 2017年(最高裁) 勝訴 72億7,000万円 手動(独自評価) ○(6年連続)
東京 2017年(最高裁) 敗訴 馬主情報を活用 ×(3年連続赤字) ×
横浜 2020年(東京高裁) 敗訴 4億4,000万円 自作プログラム × ×(6年中3年赤字) ×
高松 2021年(高松高裁) 逆転敗訴 約3億円 市販ソフト「馬王」 △(1年赤字) ×

この表から読み取れるのは、条件2「毎年黒字」が最も厳しいフィルターだということです。条件1をクリアしても、条件2で落ちた事件が3件あります。

結局、外れ馬券を経費にできる人はどんな人か

3条件の現実的なハードル

5つの裁判を通じて、外れ馬券を経費にできる(=雑所得として認められる)ための条件は非常に高いことが分かりました。

条件1の「機械的・網羅的」は、大阪事件のようなソフトによる完全自動購入が最も確実です。札幌事件のように独自の分析手法による手動購入でも認められますが、横浜事件のように「最後に自分の判断を入れる」だけで否定されます。

条件2の「毎年黒字」は、最も厳しい壁です。高松事件では5年のうち1年だけの赤字で逆転敗訴しました。しかも「通算で黒字」という主張も、「統計的に有意」という主張も、どちらも退けられています。事実上、全年度で1年の例外もなく黒字であることが求められます。

条件3の「偶然性の排除」は、条件1と条件2がクリアできていれば、自ずと認められる傾向にあります。逆に言えば、条件1・2をクリアできない時点で、条件3もクリアできないケースがほとんどです。

ほとんどの人は一時所得——確定申告の注意点

率直に言って、上記の3条件を全てクリアできる人は極めて限られます。ほとんどの方にとって、馬券の払戻金は一時所得です。

一時所得として確定申告が必要になるのは、年間の馬券による利益が50万円を超えた場合です。(給与所得者で他に所得がない場合は、一時所得を含めた他の所得の合計が20万円を超えた場合に確定申告が必要です。)

確定申告をしなかった場合は、大阪事件の男性と同じく、所得税法違反に問われる可能性があります。(確定申告を怠った場合のリスクについて詳しくは「確定申告の間違いは税務調査につながる?」をご覧ください)

また、税務調査では過去の取引を遡って調べられます。馬券の購入履歴はインターネット購入であればデータが残っており、税務署が把握できる情報は増えています。(税務調査で遡られる年数について詳しくは「税務調査は何年分遡る?3年・5年・7年の違い」をご覧ください)

参考 アメリカとの比較——グレッツィンガー事件

少し視点を変えて、海外の事例も紹介します。

1987年のアメリカ、グレッツィンガー事件。この方はドッグレースの賭けを、フルタイムの仕事として行っていました。週60時間から80時間、年間48週間。事実上の専業です。

そして、年間の収支は赤字でした。

日本の基準なら、条件2の「毎年黒字」で即アウトです。一時所得として扱われ、外れた賭けのチケットは経費になりません。

ところがアメリカの連邦最高裁は、この方を「事業」と認定しました。生計を立てる目的でフルタイムで取り組んでいるなら、年間が赤字でも事業として扱う、という判断です。

日本では事業所得の主張は裁判で退けられ、雑所得に到達するにも3条件の全クリアが必要。アメリカでは赤字でも事業と認められる。この差は、ギャンブルに対する法制度の根本的な違いを表しています。

この記事の内容を動画でも解説しています

まとめ

外れ馬券が経費になるかどうかは、馬券の儲けが「一時所得」と「雑所得」のどちらに分類されるかで決まります。

一時所得なら、外れ馬券は経費にならない。雑所得なら、外れ馬券を含めた購入費が全て経費になる。同じ儲けでも、税額は約9倍変わります。

雑所得として認められるための3条件は、(1)機械的・網羅的に買っていること、(2)全ての年で黒字であること、(3)偶然性を排除できていること。5つの裁判を通じて、特に条件2の「毎年黒字」が最も厳しい壁であることが分かりました。

ほとんどの方にとって、馬券の払戻金は一時所得です。年間50万円を超える利益が出た場合は、確定申告が必要です。

なお、この記事で解説した「たまたまなのか、仕組みなのか」という判定の構造は、競馬に限った話ではありません。副業の収入が事業所得になるか雑所得になるかも、根っこは同じ考え方です。(副業の税務調査について詳しくは「副業でも税務調査は来る?会社員が知るべきリスクと対策」をご覧ください)

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参考文献

  • 池尾智史「一時所得の課税要件に関する一考察——馬券裁判を中心として」(2022年、租税資料館)
  • 渡辺徹也「馬券事件を再び考える——4つの租税事件の比較検討」(2018年、税理)
  • 原武之「競馬の払戻金の所得区分に係る考察」(2019年、税大ジャーナル30号)
  • 国税庁「競馬の馬券の払戻金に係る課税について」
税務のシロクマくん

この記事の監修者

税務のシロクマくん(税理士)

税務署一般部門、特官部門、国税局調査部で国税調査官を長年務め、その実績と経験を活かし、現在は税理士として税金や税務調査の情報を発信中。

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