税務調査官にノルマはある?元国税職員が語る調査件数と評価の実態

国税時代、税務調査に行った先で一番よく聞かれた質問があります。

「調査官ってノルマあるんですか?」

この記事では、国税に長年勤め、現場で多くの税務調査を担当してきたシロクマくんが、この疑問に正直にお答えします。調査官のノルマの実態、評価制度の仕組み、そして調査時期や調査官の年代によって対応がどう変わるかまでお伝えします。

結論──調査件数のノルマは存在する

まず結論です。ノルマは存在します。

ただし、皆さんが想像する「営業マンの売上ノルマ」とは少し違います。国税の調査官に課されているのは「調査件数」のノルマです。

事務計画に基づく件数割り当ての仕組み

国税は行政組織です。毎年度、しっかりとした事務計画が策定され、調査件数が各部署に割り当てられます。

国税局の主務課が全体の件数目標を定め、それが各税務署へ、さらに各部門へ、最終的には各調査官へと下りてきます。一般的な法人課税部門の調査官で、年間20〜30件が目安です。

この件数は、よほどの事情がない限り下回ってはいけません。調査官は割り当てられた調査事案を、事務年度内にきちんと終わらせる必要があります。

事務年度(7月〜翌6月)と調査スケジュールの関係

国税組織の事務年度は一般企業と異なり、7月に始まり翌年6月に終わります。この1年間で割り当てられた件数をこなす必要があるため、調査のスケジュール感は事務年度に大きく左右されます。

法人調査の場合、12月と3月、6月が区切りとなる締めの月です。この締め月の存在が、調査時期ごとの「温度感の違い」を生み出しています。

調査時期によって調査官の温度感が変わる

件数ノルマがあるため、調査官の心理は時期によって大きく異なります。

7〜12月の調査──年内決着を目指して本腰

7〜8月に着手する調査は、気合が入っていることが多いです。事務年度が始まったばかりで、しっかりと時間をかけて年内には終わらせたいと考えています。年内に終わらなかった事案は、3月までには終わらせたい。この心理が働きます。

なお、翌年の人事異動に影響するのは、12月までに終結して報告できた事案が中心です。年明けに終わった調査は、直近の人事異動に反映するには間に合いません。ただし、下期の調査も翌年以降の評価に影響する可能性はあります。

年明けの調査──スムーズに終わらせたい心理

年明けに着手する調査は、とにかくスムーズに終わらせることが念頭にあります。事務年度を跨ぎたくない、つまり6月までには確実に終わらせたいという意識が強いです。

4〜5月着手の調査──年度末の駆け込み

たまに4月着手、5月着手の調査があります。事務年度の終わりが迫っているため、調査官としては正直なところ「サクッと終わらないかな」という態度であることが多いです。

この時期の調査は、件数ノルマの帳尻合わせという側面があります。逆に言えば、スムーズに対応すれば比較的早く終わる調査が多いということです。

ノルマではないが、調査の「数字」は評価に直結する

件数のノルマとは別に、調査の「内容」に関する数字があります。これは正式にはノルマとされていませんが、調査官の評価に直結しています。

増差所得──調査官の成績表

修正申告によって増加する所得金額を「増差所得」と呼びます。この数字は調査官ごとに集計・管理されています。

人事評価の直接的な項目にはなっていないというのが建前です。しかし、個人別の数字は一目瞭然であり、数字の良い調査官とそうでない調査官は周囲から見てすぐにわかる状態にあります。実質的に、数字で評価されていると言っていいでしょう。

不正発見が最高評価になる理由

調査の評価で最も高いのは「不正の発見」です。国税はとにかく不正発見に力を入れており、修正申告の数字の大小よりも、不正件数が正義です。

わかりやすく言うと、麻雀の役のようなものです。海外取引が絡む不正だとハネ満、IT取引の非違もカウント対象になっている。不正、海外、IT、そこにいくら修正で取れたかが掛け算になってくるイメージです。

最近ではIT取引の非違も件数として重視されるようになっており、時代に合わせて評価の対象も変化しています。

数字が昇給・昇進・ボーナスに与える影響

建前ではノルマとは言えません。税務調査は適正公平な課税実現のために行われるものであり、調査官がたくさん税金を取ってくるために行われるものではないからです。

しかし実態として、数字が上がっている調査官は昇給・昇進で明らかに優遇されます。ボーナスの際にも、頑張った人は他の人より多めに支給されます。インセンティブが存在するのです。

数字が出ない調査官はどうなるか

一方で、数字が上がらない調査官は人事面で不遇です。調査から外されるケースも少なくありません。

たいていの場合、3年ほど調査を担当して芽が出なければ、調査以外の部署に異動させられます。調査部門の中には「調査ができる人間が偉い」という空気があり、数字が出ないと居心地も悪くなります。

調査官の年代で対応の温度が変わる

数字が評価になるとはいえ、すべての調査官が同じ温度で数字を追い求めているわけではありません。年代によって傾向があります。

ベテラン調査官(50代以上)の特徴

50代以上のベテラン調査官は、それほど評価にこだわっていません。もう出世を追い求める段階ではないからです。

50代以上で管理職ではなく現場の調査を担当している方は、さまざまな事情で出世コースを外れた方、プライベートを優先する方など様々です。中には定年退職後、再雇用で現場の調査をしている方もいます。

ただし油断は禁物です。彼らは長年の経験に裏打ちされた技術と勘を持っています。雑談しているだけなのに、なぜか修正事項を把握されていた、ということが起こり得ます。

若手調査官の特徴と国税の人材難

若手の調査官は、現場に出たてで結果を残したいという意欲があります。上司からのプレッシャーも受けており、時には無茶な指摘や不当な要求をしてくるケースもあります。

昨今の人手不足で、優秀な人材は給与の高い民間企業に流れ、国税組織は深刻な人材難に陥っています。育成環境も整っておらず、税務署の部門では若手かベテランかという両極端な構成になっています。若手を教える中堅層がかなり不足しているのが実態です。

つまり、十分な教育を受けていない若手が現場に出ている状況です。そのような背景を理解したうえで、若手の調査官が来た場合は冷静に対応することが大切です。

なお、ここでは税務署の一般部門の調査について述べています。特別部門や国税局の調査は、また異なる種類の調査官が担当しますので、それは別の機会にお伝えします。

調査官の内部事情を知ることが最大の対策

調査官にもノルマがあり、評価制度の中で動いています。彼らもサラリーマンであり、組織の論理に従わざるを得ません。

税務調査においては、こうした調査官側の事情を理解し、その行動や意図を読み取ることで、適切な対応を取ることができます。国税出身の税理士であれば、このあたりの対応は巧いでしょう。

税務調査は来てから慌てるものではなく、日頃から備えておくものです。

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税務のシロクマくん

この記事の監修者

税務のシロクマくん(税理士)

税務署一般部門、特官部門、国税局調査部で国税調査官を長年務め、その実績と経験を活かし、現在は税理士として税金や税務調査の情報を発信中。

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