歯科医院の税務調査|自費診療の売上管理と技工料の落とし穴を元国税調査官が解説

この記事の結論

歯科医院の税務調査では、自費診療の売上管理、保険診療の期ズレ、撤去金属冠の売却収入が重点的にチェックされます。予約表・カルテ・日計表の3つが一致していれば、調査で大きな問題にはなりません。

今日からできる3つのこと

  1. 自費診療と保険診療の売上を日次で分けて記録する
  2. 撤去した金属冠の売却収入を雑収入として帳簿に計上する
  3. 技工所への発注記録と請求書を月単位で突合・保管する

歯科医院が税務調査で注目される理由

眼科医がランキング2位——医療系は重点調査業種

国税庁が公表している令和6事務年度の申告漏れ所得金額ランキングで、「眼科医」が2位にランクインしました。1件当たりの申告漏れ所得金額は3,894万円です。

令和6事務年度 申告漏れ所得金額が高額な上位業種(抜粋)
順位 業種 1件当たり申告漏れ所得
1 キャバクラ 4,164万円
2 眼科医 3,894万円
3 ホステス、ホスト 2,968万円

出典:国税庁「令和6事務年度 所得税及び消費税調査等の状況

歯科医院はこのランキングには入っていません。しかし、眼科医がランクインした理由は「自費診療(レーシック等)と保険診療の混在」にあります。歯科医院もインプラント・矯正・ホワイトニングなどの自費診療と保険診療が混在する、まったく同じ収入構造を持っています。国税庁が医療系の自費診療に注目していることは明らかです。

自費診療の単価が高く、売上管理が複雑になりやすい

インプラント1本で30〜50万円、矯正治療で80〜120万円。歯科の自費診療は1件当たりの金額が大きく、分割払いやデンタルローンを利用するケースも多いため、売上の計上タイミングが複雑になります。

加えて、歯科医院は技工所への外注費、高額な医療機器の減価償却、材料費の在庫管理など、経費側の処理も一般的な事業より複雑です。収入と経費の両面で誤りが生じやすい構造が、税務調査の対象として選定されやすい理由です。

歯科医院の税務調査で重点的にチェックされるポイント

自費診療の売上管理——予約表・カルテ・日計表の照合

歯科医院の税務調査で最も重点的に確認されるのが、自費診療の売上です。保険診療はレセプト(診療報酬明細書)で把握できますが、自費診療にはそうした第三者の記録がありません。そのため、調査官は院内の書類を突き合わせて売上の漏れを探します。

調査官が照合する3つの書類:予約表(アポイント帳)、カルテ(診療録)、日計表。予約が入っているのに日計表に売上がない場合、調査官は売上除外を疑います。キャンセルだったのであれば、予約表にキャンセルの記録が残っていることが重要です。

インプラントや矯正のように治療期間が長い自費診療は、治療の進行に応じて売上をどのタイミングで計上するかが問題になります。原則は、診療行為を行った時点で売上を認識します。治療完了を待つ必要はありません。

保険診療収入の期ズレ

保険診療の収入も、計上時期の誤り(期ズレ)が頻繁に指摘されます。歯科の場合、社会保険診療報酬支払基金や国民健康保険団体連合会からの入金は、診療月の翌々月が一般的です。

保険診療収入は「診療を行った月」に計上するのが原則です(発生主義)。入金月ではありません。12月に診療した分の報酬が翌年2月に入金されても、12月の売上として計上する必要があります。

調査官は、社保・国保からの振込通知書(決定通知書)と帳簿を突き合わせます。保険診療の総額(保険者負担分+患者窓口負担分)が正しく売上に計上されているかを確認し、振込額と帳簿の間にズレがないかをチェックします。期ズレが見つかれば、その分が売上計上漏れとして追徴課税の対象になります。

撤去金属冠の売却収入——見落としがちな「雑収入」

歯科医院特有の調査ポイントが、撤去した金属冠(金歯・銀歯・パラジウム合金など)の売却収入です。治療で取り外した金属冠は、まとめて買取業者に売却するケースが一般的ですが、この売却代金を帳簿に計上していない院が少なくありません。

調査官はこの点をよく知っています。買取業者への反面調査(取引先への確認調査)で売却金額を把握し、あなたの帳簿と照合します。売却収入を雑収入として計上していなければ、売上除外として指摘されます。金額は年間数万円〜数十万円程度のことが多いですが、複数年分を遡って指摘されれば、加算税を含めた追徴額は無視できません。

技工料・材料費の在庫管理

技工所への外注費は、歯科医院の経費の中でも大きな割合を占めます。調査官は技工所からの請求書をもとに、対応する自費診療の売上が計上されているかを逆算して確認します。

たとえば、自費のセラミッククラウンの技工物を発注しているのに、該当する自費診療の売上が帳簿にない場合、売上除外が疑われます。技工所への発注記録と請求書を月単位で保管し、対応する売上と紐づけできるようにしておくことが重要です。

また、年末時点で技工所に預けている「預け在庫」(制作中の技工物や、預けたままの貴金属)がないかも確認されます。期末在庫として計上すべき材料を経費のまま処理していると、経費の過大計上として指摘されます。

前受金・分割払い・デンタルローンの処理

インプラントや矯正治療では、治療開始前に一括で支払いを受けたり、分割払いやデンタルローンを利用するケースが多くあります。

治療開始前に全額を受け取った場合、その時点では「前受金」として処理し、実際に診療を行った時点で売上に振り替えるのが原則です。受け取った時点で全額を売上にしてしまうと、まだ提供していない役務の分まで売上に含まれてしまいます。

デンタルローンの場合、ローン会社から一括で入金されることが多いですが、売上の認識タイミングは診療行為を行った時点です。ローン会社からの入金タイミングではありません。

専従者給与と家事関連費

配偶者や家族が受付・事務を担当している場合、青色専従者給与の勤務実態が確認されます。調査当日に院内にいるか、実際に業務を行っているかを調査官は確認します。

また、自宅と医院が併設されている場合、光熱費や通信費の事業按分が適切かもチェック対象です。事業使用割合を合理的に説明できる根拠(面積比、使用時間など)を用意しておく必要があります。

消費税の課税・非課税区分

歯科医院の収入は、整骨院と同様に消費税の課税・非課税が混在しています。

歯科医院の収入と消費税の課税区分
収入の種類 消費税
保険診療収入 非課税
窓口の一部負担金(保険診療分) 非課税
自費診療(インプラント・矯正・ホワイトニング等) 課税
物販(歯ブラシ・フロス・ホワイトニング剤等) 課税
撤去金属冠の売却収入 課税

自費診療の売上が大きい歯科医院は、課税売上が基準期間(前々年)で1,000万円を超え、消費税の課税事業者になっていることが多いはずです。また、インボイス発行事業者として登録している場合は、課税売上の金額にかかわらず消費税の申告が必要です。課税・非課税の区分を誤ると、消費税の申告額そのものが狂ってしまいます。

元国税調査官が教える歯科医院の税務調査対策

自費と保険の売上を日次で分けて記録する

日計表には、保険診療の患者数と窓口負担金、自費診療の患者数と収入額を分けて記録します。予約表の来院者数と日計表の件数が一致していることを毎日確認してください。

レセコン(レセプトコンピュータ)を導入している場合は、レセコンの日次データと会計ソフトの入力を月末に突合する習慣をつけましょう。レセコンのデータは調査官も閲覧を求めることがあるため、会計帳簿との整合性が取れていることが重要です。

撤去金属冠は売却の都度、帳簿に記録する

撤去した金属冠は、まとめて売却するのが一般的ですが、売却時に必ず雑収入として計上してください。買取業者からの明細書や振込記録を保管し、帳簿と突合できる状態にしておきます。

金額が小さいからと放置すると、調査官に「意図的な除外」と判断される可能性があります。年間数万円の雑収入を正しく計上するだけで、このリスクは完全に回避できます。

技工所への発注記録を月単位で整理する

技工所からの請求書と、対応する自費診療の売上を月単位で紐づけできるように管理します。発注記録(技工指示書の控え)があれば、調査官からの質問にもスムーズに対応できます。

年末時点で技工所に預けている材料や制作中の技工物がある場合は、期末在庫として計上することを忘れないでください。

調査の連絡が来たら準備する書類

税務調査は通常、事前に電話で連絡が入ります。連絡を受けてから当日まで1〜2週間の猶予があります。この間に以下の書類を整理しておきましょう。

確定申告書の控え(過去3年分)、帳簿(仕訳帳・総勘定元帳)、レセコンの日次・月次データ、予約表、日計表、カルテ(調査対象期間分)、技工所の請求書・発注記録、銀行通帳、領収書・請求書の綴り、金属買取業者の明細書、源泉徴収簿。

税務調査の事前通知から当日までの具体的な流れは、税務調査の事前通知が来たらやるべきことで詳しく解説しています。

よくある質問

Q. 歯科医院に税務調査が来る確率はどれくらいですか?

個人事業主全体で年間約1%前後です。歯科医院単独の確率は公表されていませんが、自費診療の比率が高い医院や、同業者の平均と比べて経費率が極端に高い医院は選定されやすい傾向があります。個人事業主に税務調査が来る確率と選定基準で詳しく解説しています。

Q. インプラント治療の売上はいつ計上すべきですか?

原則として、診療行為を行った時点で計上します。インプラントは手術・上部構造の装着など複数回に分かれるため、各段階の施術を行った時点でそれぞれ売上を認識するのが基本です。治療完了時に一括計上するのではありません。

Q. 撤去した金属冠の売却収入は確定申告に含める必要がありますか?

はい、雑収入として申告が必要です。金額の大小にかかわらず、事業に関連して得た収入はすべて申告対象です。売却時の明細書を保管し、帳簿に記録してください。

Q. レセコンのデータは税務調査で見られますか?

見られることがあります。調査官はレセコンの日次・月次データと、帳簿の売上計上額を突き合わせて整合性を確認します。レセコンと会計帳簿のデータが一致していることが重要です。

まとめ——歯科医院の院長が今日からできること

歯科医院の税務調査は、自費診療の売上管理、保険診療の期ズレ、撤去金属冠の売却収入という3つのポイントに集中します。予約表・カルテ・日計表の3つが一致し、技工所の発注記録が整理されていれば、調査が入っても大きな問題にはなりません。

自費と保険の売上を日次で分けて記録すること。撤去金属冠の売却収入を雑収入として計上すること。技工所への発注記録を月単位で整理すること。この3つの習慣を今日から始めてください。

税務調査は、来てから慌てるものではなく、日頃から備えておくものです。個人事業主に税務調査が来る確率はゼロではありません。スポットで税理士に依頼すれば60万円以上かかる税務調査対応ですが、シロクマくん税務調査あんしんメンバーシップなら月額980円から、元国税調査官による事前相談と調査対応のサポートを受けられます。

税務のシロクマくん

この記事の監修者

税務のシロクマくん(税理士)

税務署一般部門、特官部門、国税局調査部で国税調査官を長年務め、その実績と経験を活かし、現在は税理士として税金や税務調査の情報を発信中。

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